恋敵と私と彼

□嫉妬なの?
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今日私達が泊まる宿屋は、赤いレンガ造りで外観にも内観にもお花が所狭しと飾られた可愛い建物だ。
この宿屋の周辺にはあまり建物は無く、まだまだ街も遠いということがわかる。まぁ一日でそんな簡単に着くなんてあるわけが無いんだけどね。

宿屋に着いても言い争っていた私達は、ディオンのお叱りにより一時沈着。

「「…ふん!」」

何よ、お姉ちゃんみたいって言っただけで褒め言葉じゃないの。
そんな事を思っていると部屋割りについてディオンが話しだした。

「2部屋頼んだから俺とフィーラで一つ、スノウで一つな」
「なんで!?」
「オホホ!おあいにく様ねチビっ子」

なんでフィーラとディオンが一緒なの!?

「なんでって…フィーラも一応男だろ」
「男じゃないよ‼心は女の子じゃない、ズルい!それなら私も二人と一緒がいい」
「阿呆ね。ベッドは2つしか無いからどっちみち無理よ」
「じゃあディオンと一緒に寝る‼」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!」

だってズルい。なんでフィーラは良くて私は駄目なのよ。

…あ
だったら。

「フィーラが私と同じ部屋になればいいんじゃない?」
「は?」

何言ってんのコイツ、みたいな目で見られる。でもそんな目で見られても私は気にしないで話を続ける。

「そーよ!そうすればフィーラがディオンと二人きりになることは無いし、フィーラだって私がディオンと一緒になるわけでもないんだから安心でしょう?」
「あんたと一緒になんてまっぴらよ」
「なんでよ‼」
「なんでもよ!」

再びギャースカと言い合いを始める私達。
ちなみにスノウ達がいるのはフロント前で、他のお客にとったら迷惑甚だしいし、フロントのオジサンも困り顔だ。見かねたディオンが口を開く。

「お前ら!」
「「なに‼」」
「とにかくフィーラは俺と一緒だ。スノウも聞き分けろ」

と私の頭をポンポンと撫でながら言い聞かせる。ほれ見ろ、と勝ち誇り顔のフィーラはそのままディオンの腕に絡みついた。
悔しい‼

「なんでよぅ」
「ま、当然の結果ね」

さっ部屋に行きましょ〜。とフィーラがディオンの腕を引っ張って階段を上がって行った為、私も木製の階段を上がり二人をおいかける。

「ディオン‼」
「スノウ、夕食は一階でとるから30分したら階段下で集合な」
「遅れんじゃないわよ〜」

パタンと部屋の扉が閉められた。
あの部屋に入る瞬間のヤツの顔‼あれが世間でいうドヤ顔ね!?

――イラッ!

ムシャクシャするが、仕方なく自分に割られた部屋に入ることにした。

ベッドは2つ。壁は勿論レンガで床は木の板。小さな暖炉がレンガの壁の真ん中にあり花が所々に飾られていて暖かい空間だ。シャワーもあって中々良い宿屋だと感じる。
ちなみにお金は村長がたっぷりくれた。さすが村の長である。

ふぅ。
ボフンッ――ベッドに倒れてみる。

…イライライライラ

ああ駄目だ、さっきの出来事を振り替えるのも癪なので、これからの旅についてでも考えよう。

ベルゼルク通りは前にも言った通り1週間かけて旅する。通りの途中途中には大きな街が三つあり、一つめはアルバーノ街。
花の街と言われているそうで色とりどりの花が咲き誇り、建物等にも花の装飾が凄いらしく此処から一番近い街だ。あぁ、その影響を受けているからこの宿屋は花が沢山あるのかもしれない。

二つ目の街はウェールズ街、三つ目はリーフベル街というのだが。ウェールズ街は文学の街と言われており数多くの小説家、戯曲、詩人を生み出しているらしい。なので国中からウェールズ街にある学校へ学びにくる人が多いんだとか。

リーフベル街はそれといった特徴は無いのだが、産業が盛んで活気が溢れている街だとマリーに聞いたことがある。しかし時折り魔物が出ることがあるようで少々厄介な感じである。一つ目の街アルバーノには明日にでも着くだろう。

花の街かぁ。


――…






青い空の下。
目の前には私が心から求めて止まない人。




『ディオーン!』


『スノウ』
綺麗な花畑。
黒髪から覗く熱の籠った紫瞳が私を見つめる。



『こっちこっち私を捕まえてみてー!』

スカートをひるがえしディオンの周りを駆けていく。


『可愛いスノウ、俺の腕の中に入れてみせるよ』

長い腕が此方へ延びてくる。



フワリ――
後ろから、いとも簡単に抱きすくめられる。

『きゃあ!』
『捕まえたぞ』

『アハハ』
『ウフフ』
『アハハ』


――…

「ウフf「だぁっから、あんた遅いのよ!」
「え、なに!?」
「いつまで部屋に籠ってんのよ!拗ねてるの?こっちは30分も待ちぼうけだっての、お腹空きすぎて死ぬわ‼」

扉の向こうからフィーラの声が高々と聞こえる。近所迷惑だ。というか考え事をしているうちに一時間経ってしまっていたようだ。そりゃ待たされた方は怒るだろう。
気づいたらはやいか直ぐに扉を開けて廊下に出る。

「ごめん、考え事してて気づかなかった」
「本当ポヤンとしてるのね相変わらず。頭の中お花畑なんじゃないの?」

ある意味当たっているのが腹立たしい。

「ほら行くわよ」
ぎゅっ
「なんで手を繋ぐの?」
「ポヤンとして危なっかしいからよ」
「意味わからない!子供じゃないもんっ」
「あらそう」
「嫌よ離しなさいよ!」
「私だって嫌だけど!この方が安心なのよ」

わけわからない!嫌ならやらなきゃいいのに。
そうしてるうちにディオンが座る席へと着く。良かった、丸いテーブルだからディオンの隣を争わなくても済みそうだ。
手を繋ぐ私達を見てディオンが一言。

「お前ら仲良いよな」

今までの私達を見てその感想はなんなのか。

「仲良くないもん」
「そうよディオン勘違いしないで、こんな小娘と仲良くしてたらあたしまで頭がお花畑になっちゃうわ」

いやそれは関係ないだろう。
しかし周りの視線が気になる。流石二人と言うべきか、女の子達の視線がディオンとフィーラに釘付けだ。

ヒソヒソと聞こえる、
(あの黒髪の…)
(えっ凄く格好良い‼)
(金髪の人も私タイプ〜)

ディオンはわかるわ。格好良いもの。
でもフィーラ?おかしいわ‼だってオカマなのよ、それに女にしか見えないじゃないの。
知らないって罪よね。

とりあえず席につき食べ物を注文する。私は無難にハンバーグ、ディオンは骨付き肉甘辛煮仕立てとガッツリだ。フィーラはポルッキという芋に似た食感の野菜の炒め物を。
料理が運ばれてくると一斉に勢い良く食べ始める。そりゃそうだ、朝はまぁいいとして昼は食べずにずっと歩き倒しだったのだから。

しばらく食べ進めていると、左隣にいる奴が手を止めてなにやら皿の中を睨んでいる。どうしたのだろうかとフィーラの皿を見てみると…あぁなるほどね、相変わらずそれ嫌いなんだフィーラ。

皿に入っていたのはペクタという鳥の皮で、私はプリプリしていて美味しいと思うのだが彼女は違うらしく、あの何ともいえない食感と微かな甘味がフィーラに言わせれば吐き気を誘うのだそう。

「フィーラそれまだ食べられないの?」
「お前ほんとだめだよなそれ。俺もあんま好きじゃないけど」
ディオンもフィーラの皿を見て口を開いた。
「だってどうしたって駄目な物は駄目なのよ!」
「そんなこと言ったってその料理注文したの自分じゃない。お金をドブに捨てるようなもんよ?只でさえお金少ないのに」
「っ!」

もったいない、とフィーラに吐き捨てる私。
そう、お金をたっぷり貰ったと言ってもそれは約3ヶ月分を一気に貰ったから感じただけで、実際問題日割りするとそこまで多くはないのである。
困り顔のフィーラになんだかちょっとイタズラ心が湧いてきた。

「フィーラ」
「何よ」
ペクタの皮をフォークに差して
「あーん」
「なっ」

ピキッと硬直し赤くなるフィーラ。翠青の瞳が丸く開き、瞬間私を睨む。ふふ…さぞや悔しいのだろう。「ほらほら食べないと〜」と口に楽しそうに押し付けるスノウ。人の不幸は蜜の味である。

フィーラは観念したのか、「…っ覚えてなさい‼」とどこぞの悪役の捨て台詞を吐いてパクっと食べた。とたん顔が青くなり、心なしか汗をかいているようにもみえる。此処はそれほど暑くはないのであれは冷や汗だろう。

自分でやっといてなんだが、だんだん申し訳なくなってきた。

「フィ、フィーラ」
「はによ!」

今だにペクタの皮が口にあるので上手く喋れていない。次の瞬間覚悟を決めたのか――ゴックン

ハァ

飲み込んだらしい。

「フィーラ大丈夫か?」
「……大丈夫よ」
「ご…ごめんフィーラ」
「………」

無言で私を睨みつける彼女。美人が怒ると三倍増しで怖いわ。

「本当、ごめん。」
「はぁ…本当に悪いと思ってるの?」
「も、もちろん‼」
「じゃあこれ。あんた食べてくれる?それでおあいこよ」

そんなことでいいのか、寧ろペクタは私は美味しいと感じるから助かるが。まぁいいだろう。

「うん、食べるよ」
「そう。じゃあはい」
あ〜ん、
「え。」
「食べてくれるんでしょ?これでおあいこじゃない」

翠青の瞳が楽しそうに光り、食べさせる気満々だ。そうきたか。…しょうがないから食べてやるわ。私だって同じことしたんだし?それに女?同士なんだから恥ずかしくなんて全然無いわ!

パクリ…モグモグ

「良い子ね、よろしい」

なんだか凄く楽しそうなフィーラ。どうせされるならディオンが良かったのに‼と、チラっとディオンを盗み見てみ…

ん?此方を凄く不機嫌そうな顔で見ている。なんでだろう?彼の視線を辿ると――フィーラ?フィーラを見ている。

なんで、え。もしかして嫉妬!?ちょっと待って、私にあ〜んなんてしているフィーラを見て不機嫌な顔するってまさか!

フィ、フィ、フィフィーラのこと
もももしかして!?
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