恋敵と私と彼

□完敗かもしれない
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翌朝私達は早めに宿屋を出た。どうにか今日で一つ目の街アルバーノに着きたいからね。

朝食の際二人と必然的に顔を合わせるのだが、二人は昨日の事をなんてことないようなふうだった。朝起きて階段下の待ち合わせ場所まで行くと、

『おー。おはようスノウ』
『あらおはよう、寝坊すると思ってたわ?』

といつもと変わらず。なんだか一人で騒いでる私が馬鹿に思えてくる。二人にとってあのキスは、さほど気にかける事ではないということだろうか。一体なんなのだ、二人は私と同い年の筈だろう。なんか大人じゃないかっ悔しい!

そうこう思案しているうちに朝食は終わり、宿屋を出発して再びベルゼルク通りを歩き出した。宿屋を出た途端ディオンの隣へいち早く行く私は、腕を絡めるのも忘れない。

「ディ〜オン!」
「スノウは朝から元気だな」
「だって夜寝る前も朝起きてもディオンがいるんだもん、嬉しくって」

そう言うとディオンは腕に抱きついているスノウの耳元に意地悪そうな顔をしながら「キスもだろ?」と囁いた。ボンっと顔が赤くなるスノウ。今それを出されるとは思わず狼狽えてしまう。

「あ、あれは」

やっぱりディオンも昨日のキスのこと――…すると急にディオンの体が反対側へ引っ張られていく。突然の事に私は前につんのめりそうになった。

原因は見なくとも何となくわかる。

「ディオンー‼そんな小娘とじゃなくてあたしと腕組んで行きましょうよ」

グィっといきなり私が掴んでいるディオンの腕のもう片方の腕にフィーラが絡む。わざとだろう。

「お前ら歩きにくい」

スノウとフィーラに腕をとられ、サンドイッチの具上体になり呆れ気味に言う。

「スノウ、ディオンが歩きにくいって言ってるのよ?早く離れたらどうかしら」
「フィーラこそ離れなさいよ!そもそも後から来たのそっちじゃない」

後から来たくせに理不尽な事を言い出すフィーラ。コイツは物事を客観的に見るということができないのだろうか。

「抜け駆けは無しって言ったでしょ!」
「昨日約束破ったのはあんたなんだから今日はあたしでも良いじゃない」
「屁理屈‼」

あーいえばこーゆう。一向にお互いに引く様子はない。両者睨み合いが続き、長くなりそうな言い合いに私は覚悟を決める。

すると「いい加減にしろ!」と、バッと二人の間に挟まれ痺れを切らしたのか、両横のスノウとフィーラを振り切り一人先へと歩いて行ってしまったディオン。

「ディオン、ごっごめ」
「あーぁ。あんたのせいでディオン怒っちゃったじゃないの」

呆れ気味に私を見やるフィーラ。いや、少なくとも私だけのせいではないと思う。こんな筈ではなかったのに、昨日も今日もフィーラのせいで私の幸運が逃げていっているのは確かだろう。そんな私の悲運の現況である彼女は、ディオンが怒ってしまったのにどこ吹く風だ。私が言うのもアレだが、もっと焦ったらどうだろうか。

「ほら、さっさと行くわよ。もたもたしてるとディオンに置いて行かれちゃうわ」
「あっ」

本当だ。もうあんなに進んでいる。えらそーに何言ってんだと罵ってやりたいが、ここで喧嘩したらまたディオンに呆れられてしまうかもしれないので、大人しくフィーラと一緒にディオンの背中を追いかけた。








宿屋を出て三時間。ひたすら道を三人で歩き進めて行くとポツポツと民家が見え始めてくる。街ではなく集落のような感じだが、それでもずっと歩きっぱなしの私達にとって着実に王都や街に近づいていると自信が持てる光景だった。

「やっと民家が見えてきたな」
「ねーディオン!あたしちょっと疲れたんだけど休憩しない?足が棒みたいでキツいわ」
「はぁ?お前男の癖に何言ってんだ」
「失礼ね!私はか弱いのよ‼」

いや否定するところが違うだろうフィーラ。しかし私もちょっと限界なのだ。普段村から出ていなかったせいか、こんな長距離歩いたことなど今まで一度もなかった。それに二人には迷惑かけたくないから言ってはいないが、靴づれが昨日からひどいのだ。歩くたびに捲れたかかとの皮からむき出した肉が靴に擦れて痛い。
我慢だ我慢。

「ねぇディオン〜」
「ったく。…スノウは?休憩したいか?」

まだごねていたフィーラに圧されディオンはスノウにどうかと聞いてきた。早く先へと進みたいディオンには悪いが私も休みたい。

「う、うん。ちょっとでも良いから休憩したいかも」
「スノウもか…。…じゃあ彼処に見える売店前のベンチで一休憩するか」

ディオンが指したのは私達がいるところからだいたい200メートル先にある民家の中に佇んでいる売店だ。あそこなら飲み物も売ってるだろうし休憩するにはうってつけだろう。

「やったぁ!ありがとうディオン〜」
「ほ、本当ごめんね?」

休憩することに決まった途端飛び跳ねるフィーラ。反対に街へ着くのがちょっと遅れてしまうかもしれない事態にディオンは少し不機嫌顔だ。

「とりあえず売店までは頑張れよ」










あれから約200メートル進み売店の前まで来た。あぁ、やっと座れる。錯覚か幻覚か疲れているせいか売店前のベンチが王様が座る玉座のようにキラキラと輝いて見える。

着いた途端ディオンは休んでいればいいのに『ちょっと武器屋とかまわってくるな‼村のしか知らねえから見てみてぇっ』と元気よく駆け出して行った。まぁ村には武器屋は二つ位しかなかったし、剣を扱うディオンにとって外の世界の武器屋は未知の物なのだろう。目がキラキラしていた。ウフっ、ディオンたら相変わらずなんだから!

ということでベンチには私とフィーラの二人で座っている。あぁ、毎回思う。何故ディオンではないのだ。そんなことを思っているとフィーラが突然話かけてきた。

「スノウ」
「なに?」
「足、出しなさい」

真剣な表情で言われ、フィーラの手がスノウの足元のローブを捲ろうとする。ぎゃぁっ!

「いきなりなによっ?破廉恥‼」
「何言ってんのよ馬鹿ね!あんたの足見たって何も思わないわよっ」

凄く馬鹿にした顔で私を見下ろすフィーラ。いや、だっていきなり足出せって言われても。戸惑うのは当たり前だと思うのだが。するとフィーラがまた真剣な表情をする。本当に何なのだろうか?

「フィーラ、」
「足、痛いんでしょ?」
「え?」

何故わかったのだろう

「違うの?」
「いや、そりゃまぁ痛いんだけど…」

言うのが早いかフィーラは私の足元に膝まづきブーツを脱がせる。私の素足を見ると、途端フィーラが顔をしかめた。うわっ、なんかグロいことになってるっ!あまり宿屋で直視せずに此処まで来たものだからどうなっているかは痛みでしかわからなかった。皮が剥け、肉が出ている感覚はあったが直視したら痛みが増しそうだったので見なかったのだ。

「ちょっと酷いわね。治癒魔法かけるからじっとしてなさい」
「…うん」
「馬鹿ねぇ、なんでこんなになるまで黙ってたのかしら」

フィーラが傷に手をかざし韻唱を始める。すると負傷していた所が温かいものに包まれた途端さっきまでの痛みが無くなり、傷も綺麗に無くなっている。流石フィーラだわ。

「っありがとう」
「どういたしまして。それに治癒魔法は自分には使えないから仕方ないわよ」

治癒魔法は私も使える魔法、というか一番得意な魔法なのだがこの魔法は自分自身には使えないのだ。だからどんなに得意でも自分にとって役に立つことはあまりない。人の役にはおおいに立つが。

フィーラは魔法全般得意だ。治癒魔法も使えるので、私がいくら治癒魔法が得意と言っても自分の傷は治せない。村長はこういう事態を見越してフィーラを選んだというのも理由にあるだろう。

ブーツを履かせてくれているフィーラを見やる。甲斐甲斐しい姿はいつも言い争っている姿と似てもつかない。しかし疑問だ、何故怪我しているのがわかったのだろう?

「…ねえ、なんで怪我してるのわかったの?」
「はぁ?」

だってディオンが気づいてないから他の人が見てもわからないくらい上手く隠せていたはずだ。

「何を言うかと思えばそんなこと?」
「だ、だってディオンは気づいてないし上手く隠せてた筈なんだけど…」

そんなにバレバレだったの?と言う私に対し呆れ顔でフィーラが答える。

「あのねぇ。大体…まずディオンはそこら辺鈍いから期待しないほうがいいわよ。」

好きな相手に対してその言い様はないだろう。
何だかディオンが気の毒に思えてくる。

「それにね、あたしは昔からずっとあんたを見てきてるのよ。あんたの様子がちょっとおかしいことぐらい直ぐにわかるわ」

当たり前でしょう?とため息をつきながら金の髪をかき上げてそう話すフィーラ。いや、私は小さい頃からディオンとフィーラと一緒にいるが、相手の変化を逐一に見抜く事など出来た試しがない。
なにそれ!フィーラの女子力半端無いんだけどっ‼気遣い出来て美人て何なのだろうか。

そうこう考えているとフィーラがベンチに座り直し私のほうを見て口を開いた。

「いい?次こういう怪我とかしたら絶対に言うのよ?」
「……うん」
「…何よその間」

じぃっと睨まれる。
だって照れ臭いのだ。いつも喧嘩ばかりしているというのに都合の良いときだけ「怪我治して♪」なんて。本当に駄目な女じゃないか。

「あんたが考えてることなんとなくわかるけど…。」
「……」
「怪我して歩くのが遅くなったりしたら、この旅の進行事態が悪くなるのよ!ディオンを困らせるつもりなの?」

それは、そうなのだが。…というかやっぱりディオンが一番なのね!そう思っていると突然大きな手が私の頭をポンポンっと撫でた。フィーラを見るとさっきまでのしかめっ面は消えていてちょっと困ったような顔をしている。

「それにあたし自信、迷惑なんて思っちゃいないんだから頼りなさい」
「っ…」

本当にあのフィーラなのだろうか?

「返事は?」
「うっん…はい!」

うん、よろしい!と笑顔になる彼女。
この笑顔にほだされるどころか私は焦りを感じる。

どーしよう
こんな、こんなの見せつけられたら
私――――――――


















フィーラに負けちゃうじゃなぁぁぁい‼‼‼●●●●
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