恋敵と私と彼

□譲れないのは
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あれから少しずつ休憩を挟みながら歩き進めている私達。もう夕陽が沈む頃合いである。

「………っあ!」

【アルバーノ街入口】

アルバーノの看板が見えた。

「あ〜、やっと着いたわねぇ」
「だらしねーなお前」
「私はか弱いの‼」

さっきまでひたすら無言で歩いていた私達だったが、看板が見えた瞬間ホッとしたのか口数が増えた。

看板はアーチのようになっており、アーチのまわりには沢山の花が飾られて凄く綺麗だ。街は煉瓦の塀で囲まれており、なんかお城の入口みたいでドキドキする。アーチを潜ると目の前に広がるのは優雅な街並み。陽が沈む時間帯だからか煉瓦造りの家の窓や店先のランプがオレンジに輝いてキラキラとしている。流石花の街というべきか、アルバーノの家々には花が所々に飾られていてなんとも可愛らしい。道にはタイルが埋められており、花をモチーフにしたモザイク朝の柄が見られる。歩くのが勿体なくてずっと見てたいくらいだ。

こんなに素敵な所があったなんて…

ボーっとしていると頭をはたかれた。

「痛っ‼」
「なにボーっとしてんのよ。綺麗なのはわかるけど今は宿を探すほうが優先よ、明日にしなさい」
「明日見てまわってもいいの!?」

はたかれた事に怒りは覚えるが、明日の予定をちらつかせてくるフィーラに半ば興奮気味に話かける。

「一周間でベルゼルク通りをぬけるって話だけど、本当のところは5日位でぬけられちゃうのよね」
「?」
「意外とあんた頑張って歩いてたし。この調子で行けば1日2日くらい此処に留まっても問題ないわよ」

なるほど、多めに見積もっていたという事か。教えてくれればよかったのに!…まぁでもそのお陰で切羽詰まって歩みを進ませることが出来たから文句は言えまい。

「おい!二人とも今日は此処に泊まるぞー!」

オレンジの光りの中。少し行った先でディオンが私達を呼ぶ。

「行きましょうか」
「うんっ」


















「三人部屋か一人部屋?」

さて宿が決まった私達だが部屋割りに問題発生。宿の部屋が一人部屋か三人部屋しか空いていないそうだ。ここを蹴ったらもう他には無い。アルバーノは有名な観光地とも知られていて国中から人が訪れる。つまりは他の宿は観光客がいっぱいで空いていないのだ。私達に迫られた選択肢は二つ。一人部屋と三人部屋を借りてわかれるか、三人部屋で三人一緒に過ごすか、だ。

フロント前で悩む私達。

「どうするか」
「私別に三人一緒でも構わないわ」

寧ろディオンと一緒で万々歳である。「フィルレイトはどーだ?」と、ディオンがフィーラの意見を促す。私の意見は参考にされないのか!どーせフィーラの事だから『一緒なんてまっぴらよっ‼』と否定するに決まっているだろうに。フィーラの返事を待つディオン。

「そうねぇ。あたしも三人部屋で良いと思うわ」
「っあれ?」

おっとつい声が。え、いーの?一緒で良いの?疑問の声をつい上げてしまった私に怪訝な表情を向けるフィーラ。

「なによ?当然の判断だわ。あんたと一緒だなんてすんごく嫌だけど‼三人部屋は只でさえ高いのよ。一人部屋も借りる余裕なんて私達に無いわ」
「まぁフィルレイトの言う通りだな。じゃあ、おっちゃん。三人部屋頼む」


そんなこんなで決まった今日の宿。部屋に入るとベッドが三つ並んでおり一つは窓際にくっついていて、あとの二つは窓際のベッドとの間に小さなテーブルを挟んだ向こう側にくっついて並んでいる。

「ディオン此処にしたら?あたしは此処にするわ」
「ああ。」
「いやちょっと待って‼‼」

フィーラがディオンに指したのは二つ並んでくっついているベッドで、あろうことかフィーラ自身は二つ並んだそのディオンの隣のベッドを使おうというのだ。それを黙って見過ごす私ではない。阻止しなくては!

「抜け駆け禁止‼」
「嫌よ。こればっかりは譲れないわ!」
「私だって譲れないもんっズルいわ‼」

「フィーラ変わってやれば?」

突然ディオンが声をかけフィーラがポカンとする。
悪戯な笑みで私のほうを見やる。

「スノウは俺の隣で寝たいんだろ?」
「えぇっ良いの!?」
「だっ駄目よ‼‼」

間入れずフィーラが反対してくる。

「ディオンの隣はあたしでいいのよっ!」
「ディオンが私が隣でも良いって言ってるんだから良いじゃないの!」
「そうだぜフィーラ。いつも隣なんだからいーだろ?たまにはスノウでも」
「でもっそれでも、」

「っあたしは絶対に嫌よっ‼」

一歩も譲らないフィーラ。
こんなにむきになったフィーラは珍しい。
こうなったら引かない事は昔からの付き合いでわかっている。そこまで嫌なのか?いや私も恋敵が意中の相手と隣同士で寝るなんて嫌だけど。




こんなに頑ななのは私とディオンが村の学校のダンス会でペアになると決めた時以来だ。ダンス会は村のお祭りのようなもので女の子は村の伝統的なワンピースドレスを着て、男の子は黒い民族衣装を着て踊る。その時調度フィーラは王都へ行っており、私は今がチャンスと思いきってディオンに声かけたのだ。人気のディオンに声をかけるのだから早く早くしないと!と焦った気持ちもあって、ダンス会のペア決めの話を先生が皆にした0.01秒後気がつけばもう申し込んでいた。断る理由がないのかディオンは二つ返事でOKしてくれた。

そしてダンス会前日。ダンス会までに当たり前だがディオンとは手と手を取り授業中も、たまに家に帰ってからも練習した。まだその頃はディオンの身長も少し低かったので顔が自分の近くにあり瞳が近くて真っ赤になったのを覚えている。そうして外で練習をしていた時一つの馬車が村に入ってきた。珍しい事ではないので気にせず踊っていると、どこからか誰かが走ってくる音が。

『ちょっとあんた何やってんのよ‼』
『っフィーラ!?』

まだ肩ぐらいの金髪を伸ばした美少女?美少年?が必死の形相で駆けつけて来た。フィーラだ。フィーラが帰って来ている。さっきの馬車はフィーラが乗って帰ってきた物だったようだ。彼女は手を繋ぎ踊る私達を見て怒り始め理不尽なことを叫び続けている。

『なんで‼』『ズルいわっ』
『抜け駆けよ!』『私も踊りたい』
『嫌っ、絶対に嫌‼』

と次から次へとまぁ文句が出てくる。
そこに見かねたフィーラのお母さんが馬車から駆け降りてきて、フィーラに言い聞かせるのだが頑固なのか何なのか一向に聞き分けない。金髪美女なフィーラのお母さんテリアさんは、彼女が母親似であると直ぐにわかる。するとテリアさんが私達に話かける。

『ごめんねぇ、スノウちゃんディオン君。フィーラがこうなると誰にも止められなくて』
『い、いえ』『頑固だよなぁ叔母さんも大変だな』

叔母さんじゃなくてお姉さんと呼びなさいディオン君と言うテリアさん。確かに叔母さんと呼ぶのには見た目も中身も少女のようで似合わない。そんなテリアさんが次に発した言葉は

『二人ともフィーラを混ぜて踊ってあげてもらっていい?』
『フィーラも?』

フィーラを混ぜて三人で踊れと言うのだ。何故そうなる。子供に甘過ぎだろうテリアさん!ディオンはディオンで『別にいいぜー』と返事をしてしまっている。良くない!良くない‼
と思っているうちにあれよあれよと事が運んでしまい結局三人でダンスを踊ったのだった。




――――――………






……どうしたものか。

お互いまぁまぁ嫌にならずに寝られる配置…

無難な……

あぁ、

「じゃあフィーラと私が隣同士で寝れば良いんじゃない。」
「は?」
「あー。」

そうだ、そうすれば文句も少しは減るだろう。フィーラはまぁ嫌がるだろうが私も腹を括るのだ、ちょっとは我慢してほしい。

「それも嫌よ‼」
「面倒臭いわねっ。我が儘ばっかり言わないでよっ!」
「でもっ」

まだ反論するというのか、いい加減にしてほしい。フィーラの態度に痺れを切らしたのかディオンが口を開く。

「俺窓際のベッドに行くわ。なんかもう面倒くせぇ」

そう言うと窓際に行きベッドに横になり疲れたのか目を瞑り息を吐いて、暫くするとそのまま寝息が聞こえてきた。

疲れている上にあんな茶番に捲き込まれたのである。申し訳ない事をしたと少々落ち込むスノウ。

そしてスノウはフィーラを睨む。



「観念して。」

「………………わかったわよ」

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