恋敵と私と彼

□安らぎに一つ
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あれからディオンを起こすのも忍びなかったのでフィーラと仕方なく二人で食堂へ行った。調子が戻ったのか相変わらずの憎まれ口で『ディオンと食べたかったわ』とさっきのことをまるで反省していなかった。というか私だって同じ気持ちだと大声で叫びたい。

食事が終わり部屋に戻るとディオンはまだ起きておらず未だに夢の中。あぁ、寝顔が素敵すぎる。近くで見ると普段よりちょっと幼い感じで新鮮だ。

「その可笑しな顔ディオンに近づけんじゃないわよ!移ったらどうしてくれるの。ていうかもう遅いからシャワー浴びてきたら?」

シャワー浴びてきたら?とだけ言えばいいものを。いつも一言二言余計なのである。

「んー。フィーラ先に入ってきて?」
「?」
「私やりたいことがあるから、それ終わったら入るわ」

怪訝な顔をするフィーラ。

「ディオンにちょっかい出すんじゃないでしょうね?」
「違うわよ‼」
「じゃあやりたいことってなによ?」
「大鐘オルゴールの音色が聴きたいの」
「あー…あれねぇ」

アルバーノの街には大きなオルゴールが時計塔の中に設置されている。夜のある時間帯になると音色が街中に響き渡るらしいのだがその時間がわからないため鳴るまで待つことにしたのだ。するとフィーラが呆れ顔で、

「でもあれ今から二時間後よ?」
「二時間!」

二時間も待つのか、というか何故知っているのだ。

「さっき食堂に食べに来ていた他の客が言ってたのが聞こえたのよ」
「ふーん。そうかぁ、二時間…」
「あたし早めに出るからあんたも早めに出て待てばいいわ。そうすれば音色聞いた後は直ぐに寝れるでしょう?」

まぁ…それもそうか。うん、わかった。と返事をする。

「じゃあ先に入るわね。覗くんじゃないわよ」
「興味無いわよ‼」

胸の前を手で隠しながらパタンとシャワー室の扉が閉められる。


あんたのそこに隠すものなんて何も無いでしょうよ‼まったく!誰が覗くもんですか‼‼













「良いお風呂だったわぁ…次どーぞ?」

あれから20分くらいでフィーラは出てきた。身体からは湯気がたっていて顔はほんのり赤い。金色の胸下まである髪はまだ乾かしていないのか濡れて乱れている。下は黒のズボンを履いているが上は暑かったのか風呂場に用意されていた白いガウンを羽織っている。チラとガウンから覗く女ではけしてない胸板に少々目のやり場に困る。

みずも滴る良いオカマである。



はぁ……さて私も入ってこよう。








―――――――……


一時間後






「あ〜、スッキリしたわ!」

ルンルンとシャワー室の扉を開けて部屋へ戻る。とディオンがいなくなっている。

「ディオンは?」
「あぁ、さっき起きてお腹すいた!とか言って食堂へ行ったわ。多分暫くは戻ってこないわね」
「そっかぁ」

なーんだ。せっかくお気に入りのネグリジェ着てみたのに。肝心のディオンがいなきゃ意味ないじゃない。とちょっと不貞腐れる。そんな私を「あらまぁ残念ね」とフィーラに鼻で笑われた。憎たらしいったらない‼

「髪の毛乾かしてあげるからこっち来なさいよ」

ムカムカするが、そうフィーラに呼ばれたのでベッドの上に座っている彼女のほうへ行き大人しく隣に座った。
風の魔法だ。フィーラはよくこの魔法を使って、昔からこうやって時々私の髪の毛を乾かしてくれたりしていた。
だから私は拒否なんて今更しないし、これは恋敵になっている今も変わらない。ついさっき鼻で笑われたことは決して忘れないが。

フィーラの手が私の髪を持ち上げる。韻唱が始まり、心地よい風が私の首を撫でる。

「あんたの髪の毛って本当に綺麗よね、羨ましいわ」
「フィーラの髪だって金色で綺麗じゃない」

そして決まってこんな言葉を交わす。頭を撫でる手がとても気持ちいい。それを前回やってもらった時に言ったら『魔法冥利につきるわ』と笑いながら言っていた。魔法の効果の一部だったらしい。

「ねぇ私もその魔法できるかな?」
「無理じゃない?」
「えー教えてよ‼」
「いーのよ。あんたは出来なくても」

できるようになりたいのになぁ。まわりでこの魔法を使うのはフィーラぐらいだから、やってもらいたい時はフィーラにしか頼めないのだ。ブー垂れて顔をしかめるとフィーラの手が私の眉間を伸ばしにくる。

「そんな顔してたらブサイクになるわよ」
「余計なお世話なんだけど‼」
「それにこの魔法は人にやってもらうから心地よく感じるのよ?自分の力を使ってるから寧ろ消耗よね」

治癒魔法と同じようなものなのだろうか?というか風呂上がり早々そんな力を消耗させる事をさせて来たのか私。いやでもフィーラ自身が誘ってくれてたわけだから私は悪くないと思います。

フィーラが風の魔法を終えると、肩が凝ったのか肩と腕を回している。いや、私は悪くないと思います。

しかしどうやら風の魔法のせいだけではないようで、旅の疲れも溜まっていたらしい。

「ねぇスノウ、久しぶりにアレやってもらってもいい?ちょっと疲れがとれなくて」
「いいけど…暫くやってないから上手く出来るかわからないわ」
「構わないわ。お願い」

アレとは私が使う回復魔法の一種だ。私は普段回復魔法を韻唱破棄で発動させる事が出来る。しかも一瞬で対象の体力や怪我を治せて効果は絶大なのだが、普通そんな事が出来る人間はいないらしい。だからそれを知る村長やおばあちゃんにフィーラやディオンなど昔から私を知る人達は口を酸っぱくして『あまり人前では使わないように』と言われてきた。

そんな私は、回復魔法を使う際なんとか力を抑える為にと色々と頑張った結果、だんだん術のコントロールを効かせることが出来るようになった。

そんな中で生み出した魔法のうちの一つが相手の疲れを癒してリラックスさせる魔法だ。微弱にした回復魔法を自分の魔力で調度良い具合で練って、相手の身体に送りこむ。
昔それを王都から疲れ気味で帰ってきたフィーラに使ったら評判が良かったのだ。だから皆にも自慢しようと思ったのだが、フィーラが他にそんな魔法使える人はいないし危ないから隠しておきなさい。と焦り顔で言ってきたので披露せずに終わっている。

だからこの魔法はフィーラと私しか知らない。それにこうやって時々頼まれるのだ。まぁ魔法が不得意な私が唯一フィーラより上に立てる瞬間だから拒否はしない。

「じゃあはい」

――フワリ

と手を広げる私。ベッドの上で膝立ちになりそしてそのまま座るフィーラを目の前から抱き締める。本当はどこか一部分に触れるだけでいいのだがこのほうが効き目が良いと、ある意味実験対象のフィーラに言われたのでそのままこのスタイルとなった。


「スノウ、あのネックレスしてる?」
「アレ?フィーラがくれた時からずっとつけてるよ」

昔フィーラが王都でのお土産と称してくれたのは、私の指には合わない大きな指輪だった。御守りなんだそうで、流石に指には大きい指輪を嵌めることは出来なかった私に、指輪をチェーンに通してネックレスにしてくれたフィーラ。
効果の程はわからないが折角なので毎日つけていたら、それが当たり前になっしまっていて気がつけば首に下がっている。なので今も自然とつけている状態だ。

「そう。これからもずっと付けててね?」

フィーラが目を瞑り気持ち良さそうな顔をする。胸に寄せた金色頭を見ていつもこんな風に大人しければ良いのに。とこの魔法を使う度に私は思う。そんなことを言う気にもなれないのは魔法を使っている間、だんだん私も眠くなってくるせいだ。身体がポカポカしてきて気づいた時には寝ている。

「フィーラ?」
「………」
「…寝ちゃったの?」

反応が無いと思ったらどうやら夢の中に旅立ったらしい。

《ゴーン…ゴーン…ゴーン》

すると何かが響く音が聴こえる。鐘の音だ。

《―……〜〜:*o…〜…〜…〜〜♪》

オルゴールの音色が耳に入る。凄く綺麗だわ――…窓の外に見える時計塔がキラキラと輝いている。その姿は時計塔ではなくお城のようにも見えた。

スノウは瞳を閉じて音色に聴き入る。安らぎを感じる音色にスノウは魔法の力も手伝ってかさっきよりもウトウトしだした。








あぁ…駄目よ、もっと聴いていたいのに……




















スノウはフィーラを腕に抱き締めたまま、今回も眠ってしまうのであった。

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