恋敵と私と彼

□小さな予言者
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明朝私達はアルバーノを出発した。今日の朝もフィーラが私に抱きついており昨日の今日で慣れてしまった私は悲鳴を挙げなかったが、フィーラはまたもや悲鳴を挙げて『何してるのよ!?』と吃驚して跳び跳ねていた。いや私が聞きたい。
ディオンは昨日の気まずさを無くすように『今日も頑張ろーぜ』『朝食何にするか』と色々話し掛けてくれて、私もそれに応えるように何時もの感じで笑いかけた。

今ベルゼルク通りを歩く私達が次に目指すのはウェールズ街という街で、アルバーノから半日で着く距離らしく夕方前には到着する予定だ。
文学の街と言うからどこか硬いイメージしか持てないのだが、フィーラが言うにはアルバーノとは違い華々しさは無いけれどウェールズが生み出す作家達の色々な本や戯曲の舞台になっている場所が多くある為、湖や大きな時計広場に綺麗な噴水、美術館と劇場等々さまざまな施設や街の人達の憩いの場があるらしく、中でも国で最大級と言われる図書館がウェールズでも一番有名だそうだ。私は勉強は好きではないが恋物語や童話、自分は得意じゃないけど魔法書を読むのが大好きなのでフィーラの話を聞いていたら早くウェールズに着くのが楽しみになり自然と歩みが軽くなる。

歩きながら隣のディオンの腕を見る私はその腕に抱きつきたくてしょうがない、でも武器屋での『聞き分けろよ』の言葉が頭の中でリピートしていてウザがられないか心配で中々抱き着く勇気が出ない。
でも、でもちょっとだけなら良いかな?抱き着くまではいかないけどそっと腕に手を掛けるくらいなら…。
そう思ったスノウはおずおずとディオンの腕に手を掛ける。手を掛けたことに気づいたのかディオンがスノウの腕を少し自分のほうへ寄せてそのまま歩く。
うう〜良かったぁ、ウザがられてないみたい!私の反対側でディオンの隣を歩くフィーラは私のこの幸せな状況には気づいておらず喧嘩を吹っ掛けてくる様子はないみたい。いつものように堂々とディオンに仕掛けなかったせいなのと、ディオンが何も言わずに腕を引いてくれたお掛けだと思う。
どうせなら正々堂々といきたい所だがまたフィーラと喧嘩になるとディオンに振りきられてしまう恐れがある為致し方ない。


暫く歩いていると通りの横の茂みからガサガサっと何かが動いているような音が聞こえた。その音に私達は立ち止まり警戒する。

「なんだ?」
「魔物…だったりして」
「こんな所にいるのかしら?」

と目を見張り話していると茂みから現れたのは、

「ポヨン?」

ポーリヨン、別名ポヨンと言う妖精だ。白く肌触りの良い毛並みをしていてボールのように丸く小さく、クリクリとした可愛い目が特徴の愛らしい見た目をしている。妖精…と言うと人形のような小さな人間に蝶々のような羽を生やした可憐で神秘的な生物を想像するが、そういう妖精だけではなくポヨンの様に小動物を思わせる妖精もいるのだ。

「きゃあっ可愛い‼」
「珍しいわねぇ」
「何処かの占い師の所から逃げて来たのか?」

ポヨンの妖精としての力は未来予知と過去投影で、職業が占い師の人達はポヨンとの魔法契約を交わしてやっと一人前になる。
ポヨンが未来を見せるのはポヨンにこの人間に知らせたい、見せたいと感じさせなければいけないため契約を交わさなければポヨンの気まぐれでしか力が発揮出来ないのだ。
ポヨンが生息するのは北の山間部の森で、普通なら人が通るベルゼルク通りに居るはずはないのだけれど占い師と契約しているのなら別だ。こんな所にいる理由にも説明がつく。

「怪我してるの?」
「本当だ、目の横に傷があるな」

このポヨンの目の横に傷があるのを発見する。

「どうしたの?」
『占い中に客の人間に逆上されて斬られてしまいました。吃驚して逃げて来たのです。』

ポヨンに話を聞くと、何時もの様に道の横で契約者の占い師と仕事をしていたら結果に逆ギレされポヨンを斬りつけたと言う。暴れ出した客から守る為か占い師が取り合えず逃げなさいとポヨンを逃がしたそうだ。
その客は大方ポヨンを傷つけて未来を変えようとでもしたのだろう。そんなことをしても無駄だというのに。

「ポヨンはなんて言ってるの?」
「お客に傷つけられて逃げて来たみたい」
「やっぱり占い師か」

ちなみにディオンとフィーラには妖精の声は聞こえておらず、でもそれが普通で聞こえるなんてのは稀なんだとか。私も自分が何故話せて、何故聞こえるのかは分からない。妖精と契約している人でさえ話す事など出来ず契約の際は契約したい妖精にアピールし自分の力を見せて、妖精からの契約の印を貰いほぼ妖精側のジェスチャーでコミュニケーションをとっているのだ。妖精は人間の言葉が分かる為話掛ければ理解してくれる。

「治癒魔法掛けてあげるね」

痛そうな傷を早く治してあげたいのでポヨンの目の横に手を当てて力を込め魔法を掛けると、餓死する程の傷でもないので一瞬で治った。

『ありがとうございます。貴女の魔法は凄いですね、一瞬で治りました!怪我する前よりも元気になったみたいです』
「ふふ!褒めて貰えて私も嬉しい」

元気になったポヨンはぴょんぴょんと跳び跳ねると私の手の中にポフっと乗ってきた。クリッとした瞳が私を見つめている。可愛い‼

『お礼に貴女の未来を見せましょう』
「えっ?そん――――…」

断ろうとしたがポヨンがそう言った瞬間頭に映像が流れ込んできた。そんな中見えたのはお城と神殿のような大きな建物、そして祭壇。祭壇の前には白いベールを頭に被った女神様のような格好をした女の人がいて、他には誰もおらず一人きりで祈りを捧げているように見える。すると女の人が此方を向いて顔が露になる。私と同じミントグリーンの髪をした…


あれは…お母さん?

私のお母さんは私が産まれた数日後に亡くなったのだとおばあちゃんから聞いている。お母さんの写真は一枚もないし、どんな人だったのかを物心がついた時におばあちゃんに聞いたのだが上手くはぐらかされてしまっていたので特徴なんてものも全く知らないし、お父さんのことも同様に記憶なんて無い。
だからお母さんの顔なんて覚えてはいない筈なのに、何故だか分からないがあの人が母だと私のどこかで不思議と確信がある。
するとお母さんは私に向かって口を開いた。

『ごめんね…貴女も私と同じ運命を…』

お母さんの瞳から涙がこぼれた。

『ごめんね…スノウ』

どうしたの?何故泣いているの?
どうして――――…

そこで映像は途切れた。

意識が戻りハッとするとポヨンは手のひらから降り、私のほうを向いて言葉を投げ掛ける。

『貴女が今見たのは近い未来起きる事を暗示したものです。貴女の母が忠告していましたね。』
「…………」
『未来は変えられます。それと一つ貴女に申し上げます、傍らにある深い愛を見逃さないで。心優しい貴女にどうか神のご加護があります様に』

そう言うとポヨンは茂みの方へと戻って行った。

突然の事で何が何だかで頭の整理がつかない。あれは何だったの?なんでお母さんが?それにあのお城と神殿。お城と言う事はあれは王都なのだろうか?様々な疑問が湧いてくる。

「あんたボーっとしてたけど大丈夫?」
「具合でも悪いのか?」

私が未来を見せられていた間意識が遠退きボーっとしていたので変に思ったのか二人に心配されてしまった。

「大丈夫、早く行こっか!」

頭の中は全然大丈夫では無いが自分でもまだ半分以上も分かっていないことを二人に話すのもどうかと思うので、何も無いフリをして先を急いだ。

微妙に納得していない二人を急かし再び歩き始めた私はさっきのことについて考えてみる。
近いうちに起こる未来だと言っていたポヨン。でもあれだけじゃ一体何が起こるのかなんて分からないし、分かるのはお母さんが泣いていたと言う事だけだ。『貴女も私と同じ運命を』と言う言葉から察するに近い将来わたしがお母さんと同じ道を辿るであろうと言う事なのであろうか?でもそれは一体なんなのかと肝心な事が一切分からない。
『未来は変えられます』と言っていたポヨン。何の未来を?お母さんと同じ運命を辿ることを?変えなくてはいけないような未来なの?お母さん…

お母さんの姿を思い出す。あれが私のお母さん…似てたなぁ、何だか嬉しい反面切ない気持ちになってしまう。物心ついた時から私にはおばあちゃんだけで、お母さんとお父さんには会った事もないから興味本意でおばあちゃんに二人の事を聞いた事はあるけど、顔も知らない二人に会いたいと思った事なんて一度もなかった。でも見てしまった。意識の中でだけど、触る事も話す事も出来なかったけどちゃんと見たのだ、私の名前を呼ぶお母さんを。泣いていたけれど私に向けられた瞳には確かに愛情が込められていたのだ。『深い愛を見逃さないで』の深い愛とはお母さんの事なのだろうか
お母さん…

あ〜ダメダメ‼ブンっブンっと頭を振る。今考えてもきりがないからこれはこの旅が終わったらゆっくり考えてみよう。今は未来の問題より目の前の問題を解決していかなきゃ。
そう決めた私はこの出来事を無理矢理頭の隅に追いやり意識を旅に戻したのであった。

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