紅い心

□紅い心 〜狂犬の素顔〜
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いつものように賑わいをみせる、大衆居酒屋。

真島はひとりカウンターで飲んでいた。

以前、名前と瑠伽を連れて来た場所だ。


スジの煮込みを一口食べると、この前は頼まなかった事を思い出す。

ここは煮込みも美味いのだ。

今度また連れてきて食べさせてやろうと思っていると、ついたてを挟んだ後ろの四人席に客が座る気配がした。



「そう言えば咲弥さん、ロンディネのオーナーどうなりました?」

真島の箸がピタリと止まる。


「それがさ、途中でとんだ邪魔が入っちゃってさ」

「何かあったんですか?」

咲弥は少し興奮気味に言う。

「ホテル行ったまでは良かったんだよ、そしたらさ、そこに誰が来たと思う?」

「誰ですか?」

「嶋野の狂犬だよ。……確か真島何とかっていったかな。鉄製のドア蹴破りやがった。化けもんだよありゃ」

一瞬、会話が途絶える。

「……え?それってマズくないですか?」

「あのオーナー、ヤクザの愛人だったんですかね」

「さあな、取りあえず俺は暫く神室町出るわ」


真島はその会話を微動だにせずに聞いていた。

(この街から出れば逃げられるとでも思ぅとんのかい。俺も舐められたもんやのう…)



「あの女さあ、全然なびかないから、取りあえずヤッちまおうと思ってたんだけど」

「女って、一回寝ればすぐ彼女ヅラするもんですからね」

「そそ、ベッドの上でちょっとマジっぽく告れば、だいたい引っかかるよな」

それを聞いていた後輩らしき男が、興味津々に訊く。

「へえ、それで駄目な時はどうするんですか?」

「そりゃお前、ヤってる最中の画像や動画撮っときゃ、色々使えんだろ」

「ただし、下手すりゃ警察沙汰だから、慎重にな」


釈然としない様子で咲弥が言った。

「しっかし、今回は結構金引っ張れると思ったんだけどなあ」

「キャバクラのオーナーですからね」

「結局、金の使い損だったよ」

それを聞いた一人が。

「咲弥さん、あそこの店のキャバ嬢引き抜きませんか?」

「……引き抜く?」

「俺の知り合いキャバの店長なんすよ。あそこの女、結構うちの店遊びに来ますし、その子ら引き抜いてその知り合いの店に紹介すれば、店からも報酬もらえますよ」

「おう、悪くないな」

「口止めしときゃ、俺らの仕業だって気付かねーもんな」

「あのオーナーの困った顔、見ものだな」

ゲラゲラ笑う声を背に、真島は無言で立ち上がる。



「なーんや、随分おもろそうな話しとるのう」

ついたての上に両腕を組むようにして寄りかかり、上から覗くと三人の男が驚いてこちらを向く。

「俺も混ぜてくれんやろか」

「あ、…あんたは…」

咲弥の顔が青ざめた。


「ぜぇーんぶ聞ぃとったで。俺のシマの店荒らすとかええ度胸しとるのう」

薄ら笑いを浮かべていた顔がスッと真顔になる。

「ちぃっとそこまで顔かせや」

真島は低く凄味のきいた声で言った。
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