過去の拍手SS
□レンタル
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真島が何か映画が見たいと言い出したので、DVDのレンタルショップへ行く事になった。
「お前はどういうんが観たいねん?」
「私……ですか?」
特に映画には興味の無い彼女を、無理やり連れてきたのは真島である。
「映画ってあまりちゃんと観たこと無いので、よく分からないです」
まあ、予想通りの答えだった。真島はつまらなそうにフンと鼻を鳴らすと、隣に立つ京に「お前は?」と訊いてみる。
「俺は……恋愛もの以外なら何でも」
「なんやねん、人が折角訊いてやっとるのに」
「でも、映画が観たいって言い出したのはボスですよ?」
「だったらボスが決めて下さいよ」と言われ、真島は「しゃあないのぅ」とスタスタと歩き出す。そして、足を止めたのはホラー映画のコーナーだった。
「これなんかどや?」
棚から取り出したパッケージを見た彼女は眉をひそめた。
「私は苦手です。この人達、生きたまま人を食べるじゃないですか。フィクションと分かってても痛々しいです」
「“この人達”て……ゾンビは人やないで」
「元“人”しゃないですか」
そう言うと、彼女はその隣の似たようなDVDパッケージを取り出すとまじまじと眺めた。
「ボスってこういうの好きですよね」
「せやな。最近のゾンビはめっちゃ走りよるからなぁ、スリル満点やで」
すると、手の中のDVDを棚に戻しながら彼女は呆れた顔で言った。
「これ、結局は作り物じゃないですか。非現実的過ぎます」
「夢の無いやっちゃな。作りもんかどうかなんて、この際どうでもええねん。楽しんだもん勝ちや」
「そういうものですか……」
「よっしゃ、これ借りてこ」
そんなやり取りをしていると、真島はキョロキョロと辺りを見回した。
「そういや京はどこ行ったんや?」
いつの間にか姿を消した京を、二人は探し始める。
彼が居たのは意外にも成人男性向けコーナーだった。
「お前、こんなところで何しとんねん?」
あるDVDのパッケージを、真剣な眼差しでまじまじと見ていた京は、二人の存在に気が付くと気まずそうに視線を泳がせた。
「京さんもこういうの興味あるんですね?」
「なんや、今夜のオカズでも探しとったんか?」
ニヤニヤする真島に、彼は「それが……」と再び手に持つDVDに視線を落とした。
そこには、とてもスレンダーな身体にかなり豊満な胸を持った水着姿の女性がセクシーなポーズで立っていた。
「この細身の身体に、これだけの胸というのは……作り物だろうかと気になりまして……」
「確かに、ちょっと非現実的な大きさですね」
「お前らほんま夢が無いのう。作りもんかどうかなんて関係あらへん。要は楽しめるかどうかやろ?」
「なるほど、さっきのゾンビ映画と通じるものがありますね」
真島の言葉に妙に納得したのか、彼女は自分の顎に手を当てうんうんと頷いている。
何の話か分からないと言った表情の京の手から、真島はひょいとDVDをひったくるとニヤリと笑って見せた。
「ほんなら、今夜は二人で本物かどうかの検証会や」
「い、いや、俺は別に……」
「ボス、私も検証会参加したいですっ!!」
彼女の意見は聞こえなかった素振りで、真島はカウンターへと歩き出す。
「お、親父?冗談ですよね?観ませんよ俺は」
「ボスっ!!無視しないで下さいっ!!」
そんな二人の声を背中で聞きながら、真島は楽しそうに笑っていた。
今夜は長い夜になりそうだ。
〜end〜