SS書庫

□数秒
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「わざわざ来てくれなくても大丈夫だったのに。」

冷却シートを額に貼り、ほんのりと赤い顔の紅葉が玄関先まで出てくる。
フラフラと覚束無い足元が、彼女がいかに不調なのかを指し示す。

「心配なんですよ。紅葉はいつも無茶ばかりするのでね。」

とりあえず上がらせて貰う、と半ば強引に紅葉の部屋に足を運ぶ。
机の上にあるノートやら教科書が、僕の予想の完全的中を意味する。

「典明。とても嬉しいんだけど、風邪うつりますよ?」
「僕は別に構わないが…。」

それよりも、と僕が指さす机の上に、紅葉は気恥ずかし気に笑った。

「あはは。随分散らかしてますよね。」

あとでちゃんと片付けるよ、と立ち上がる紅葉の手を掴む。
一瞬、きょとんとした顔を浮かべるが、僕の真剣な目に彼女はゆっくり腰を下ろした。


「昼は食べましたか?」
「食欲がなかったから…食べてないです。」

君は病人なんだと一喝したい気持ちを抑え、深い溜息を吐く。
ここに来る途中によったスーパーで買ったゼリーを取り出し、紅葉の手の平にのせる。
ん?と首を傾げる紅葉が可愛くて、直視はできなかった。


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