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□燻り満つ
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「見て、承太郎。あの雲、イルカみたい。」
そう指さした先には、珍しい形の雲があった。そうだな、と鼻で笑い、紅葉の頭をワシャっと撫でた。綺麗で艶のある髪が、一瞬で無造作に乱れる。
承太郎は、胸ポケットから1本、煙草を取り出す。そのまま慣れた手つきでライターに火をつけ、それをタバコに移す。ふぅ、と息を吐く度に、その口から溢れる煙と色気。
「承太郎、」
「なんだ。」
「私ね、彼氏と別れた。」
何の前触れもなく、しかも淡々と言うものだから、一瞬間、承太郎は唖然とした。切なげに笑う紅葉の左頬、隠れて見えなかったがそこには大きな痣があった。
「おい、その怪我どうした。」
大方の予想はついている。別れた原因とやらに関係しているのだろうと、承太郎は静かに悟った。今更隠しても遅いのに、空いた手で頬を押さえ「関係ないでしょ。」とはぐらかす紅葉は面倒で素直じゃなくて苛立たしい。
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