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□燻り満つ
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ありがたいね、と、その体勢に動じることもなく紅葉は半身を起こした。それに合わせて動く承太郎の上半身を、スキを突いて押す。思った以上の力によろめき、紅葉に押し倒されるという予期せぬ事態に巻き込まれる。


「私さ、承太郎が思ってる以上にいろんな経験積んでるよ?」


逆に私が紅葉しかいないって思わせてあげる。と妖艶に笑う紅葉を見て、承太郎は溜息をつく。

「やれるもんならやってみな、このアマが。」

挑発し、煽れば、ニタリと笑ってすぐにそれに紅葉は乗っかってくる。先程、燻り満たせた煙草のせいか、紅葉から仕掛けてきたキスは少し苦かった。承太郎の全てを知ったような、乱暴かつ丁寧な舌の絡ませ方に、いったいどれだけの男を誑かして来たのか。否が応にも、承太郎には伝わっていた。


「煽った罰ね。なかなか上手でしょ。」

何事もなかったように無邪気な笑顔を見せる紅葉に、承太郎はつくづく遊ばれているな。と、また一本、煙草を手に取った。

(俺の元で落ち着けばいいんだぜ。)

それなら幸せにしてやるのに。と、燻り満つ煙に想いをのせて。


燻り満つ


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