菖蒲の物語〜刀剣乱舞〜
□転生にょたかした長谷部の話
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(また、この夢か…。)
何処かの合戦場を堂々としながら歩く少女は特に驚くこともせずに、状況を把握することもせずに、ただ歩みを進めていた。
明晰夢とは、睡眠中にみる夢のうち、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のことである。
そして、少女―――長谷部 国重は幼少期から頻繁に明晰夢を見ていた。最初の数年は驚いていたが、何年経っても代わり映えしない夢の舞台に次第に慣れていった。
(この辺りか…?)
そこでは、二つの部隊が争っていた。そして、黒く禍々しい印象をもつ部隊が圧倒的に有利のようだった。もうひとつの部隊は人数は黒い部隊より一人少ない二人だが、どちらもボロボロだった。
煤色の髪の男が無茶とも言える突撃を仕掛け……敵の反撃を受けて倒れた。もう一人の黒髪の男が何かを叫びながら全ての敵を倒した。そして煤色の髪の男を抱き起こし………
「…え…にえ…起きなさい、国重」
「…そ、うざ?」
「全く、貴女って人は…。今日は入学式でしょう。早く着替えなさい」
「あぁ…」
長谷部を起こしたのは、隣に住む幼馴染みの宗三だった。三兄弟の次男で長谷部とは同い年。そして、今日入学する学校も同じだった。
(……また、あの夢か。最近あまり見ていなかったが、入学式の日にまで見るとは)
真新しいブレザーの制服に着替えながら考えるのは、今日見た明晰夢のことだった。明晰夢のことは独立した兄の日本号と宗三以外には言っていない。両親がいたならば相談していたが、両親は残念ながら早くに亡くなっていた。
「国重?どうしたのです?」
何時も身支度をすぐに済ませる長谷部がなかなか来ないので、心配した宗三が様子を見に来たようだ。
「いや…なんでもない。」
「そうですか…。座りなさい、髪を結びます」
宗三の勧めで長谷部は髪をのばしているが、自分では上手く結べずに毎朝宗三に結んでもらっていた。
「また、あの夢を見たのですか?」
「あぁ…」
「あまり気にするんじゃありませんよ。夢など意味を考えるだけ無意味ですからね………。ハイ、できました。朝食は作っておきましたから」
「何から何まですまない」
「今更、ですよ」
宗三とは学校が同じなので一緒に登校することになっている。
宗三の作ってくれた朝食を食べ片付け、持ち物を再確認してから家を出る。
「行きますよ、国重」
「あぁ」
宗三の兄弟の江雪と小夜も今日は一緒に出る。入学式とはいえ小中高まで一貫の学校は宗三や長谷部などの外部入学者のためのものだ。因みに、江雪と小夜はそこの生徒である。
「早く、行かないと、遅刻しますよ」
江雪の忠告を受け、四人で歩き始める。今日から四人が共に通う学校―――刀剣乱舞学園に向かい。
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「?どうしたんだ、機嫌が驚くほど良いみてぇだな」
「…いっそ気味が悪いがな」
「フフッ、分かる?なんだか今日は良いことありそうだから」
「勘でそこまで機嫌が良いんだから幸せな奴だな」