菖蒲の物語〜刀剣乱舞〜
□自覚有りの清光と無自覚安定
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「安定ぁぁぁぁ」
周りのことを無視するのもいい加減にしろ、そう言いたくなる程の大音量で僕を呼んでいるのは、幼馴染みの加州清光だ。(こんな名前だけど、女だ。)因みに此処は学校の図書室で、更に言えば中間テスト前でもある。周りの視線が痛い。
「清光、此処は図書室なんだよ。もっと声を小さくしてよ。」
「ごめんごめん、いや〜勉強教えて貰うのに遅れたら、アレでしょ」
「もうとっくに遅れてる…よ…。あと、後ろ」
「???」
「加州清光…貴様、図書室では静かにせんか!!皆勉強に来ているのだぞ!!その上制服はしっかりと着ろ!!改造をするな!!」
「長谷部先輩…」
はぁ、やっぱりね。長谷部先輩は、風紀委員長で委員会の中で一番厳しい。清光がきちんとしていないと、僕までとばっちりを受ける。今日はテスト期間だからか早く終わったようだ。
「サイッアク!!」
「自業自得だよ。ホラ、何からやるの?」
「英語教えて」
「じゃあ教科書開ける。今すぐ」
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「ハイ、今日は終了」
「…疲れた」
5時になったからそろそろ帰ろうと思って清光に言うと、机に突っ伏して動かない。…邪魔だ。
「清光、ホラ起きる。で、さっさと帰る!!」
「ウー」
「ウー、じゃ無いっ!!」
唸る清光を何とか立たせ、さぁ帰ろうと思ったら女子に声を掛けられた。リボンの色は赤――1年生だ。(僕達2年生は緑)
「大和守先輩…あの、お話が有るんです…」
「…?分かった。清光、先に帰ってて」
清光に言うと、1年生の女子について行く。…先程の清光の視線が気になった。清光は、確かに1年生のことを睨んでいた。
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「大和守安定先輩、ずっとお慕いしていました。私と付き合って下さい。」
1年生は振り返るなり、そう言った。正直、面倒だ。
「悪いけど、今は誰とも付き合う気は、無いんだ。」
何時もと変わらない台詞を言う。なぜだか、1ヶ月に1回はこういった呼び出しを受ける。そのたびに、友達に絡まれるし、清光の機嫌が悪くなって苦労している。
「そうですか…申し訳ありません。大和守先輩には、加州先輩が居ますものね。」
「はっ…?」
「失礼しますッッ」
そう言って彼女は、走り去って行った。疑問だったのは、彼女が何故か清光の名前を出した事だった。
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僕が帰ろうと思っていたら、雨が降っていた。多分夕立だろうと思って傘を取りに教室に戻り、昇降口に行くともう誰も居なくなっていた。今日の夕飯は何にしよう、と思いながら帰っていた。
「は…!?」
「安定〜お帰り〜」
僕の家の前にはびしょ濡れの清光が居た。
「何してんの!?清光!?」
「いや〜、鍵忘れた上に傘まで忘れちゃってさぁ〜」
「バカじゃないの、早く入って」
「ありがと〜」
濡れ鼠の清光を風呂場に押し込み、夕御飯のハンバーグを作りながら、上がって来たら出してやろうと、牛乳を温め始めた。