菖蒲の勾配

□獄卒がブラック本丸の審神者に!?
1ページ/2ページ

「大丈夫ですか!?身夜様」

こんのすけは、倒れている身夜に駆け寄った。獄卒には『死』の概念が無い、確かにそうは聞いていた。しかし、目の前に20にも満たない姿の少女が倒れている。心配しない筈がなかった。

「あぁ〜、大丈夫だこんのすけ」

身夜はそう言いながら半身を起こすとこんのすけを抱き上げた。

「流石は名刀…きれいに斬られたから再生するのも早かったな」

自らの首を触りながら呑気に言う身夜。

「さぁ、そろそろなんかやるか…」

身夜は笑う。楽しそうに、愉快そうに、………………哀れむように

「見てろよ、刀剣。
『本物』の化け物…特と見せてやらぁ」

歌うように、狂ったように唱える少女の姿をした『鬼』

「さぁ、開幕するのは喜劇か、はたまた悲劇か」

――――――――――――――――――――――――――――――――――

翌朝目を覚ました刀剣男士たちは、本丸に違和感を感じた。異常に綺麗なのだ。昨日までは血があちこちに飛び散り、塵や埃、ゴミが散乱していた。それが床も壁も磨き上げられ、塵一つ落ちていない。

「どうゆうコト…!?」

自室から出てきた加州清光は驚愕した。昨日までの本丸とは雲泥の差だ。

「新しい審神者がやったのかもしれねぇ。」

「兼定、国広」

其処に居たのは、和泉守兼定と堀川国広だ。元の主の関係でよく一緒にいる。

「新しい審神者って?歌仙が斬ったって聞いたけど?」

「斬られる前にやったのかな?」

3人で言い合っていると間の抜けたチャイムのような音がなった

ピンポンパンポーン

「放送…?」

『よーし、付いたな。
 えー、刀剣男士の皆さんおはようございます。私が…』

声は、少女のものだった。本丸にこんな声のものは居ない。ということは…

「新しい審神者?」

「なんで途中で途切れてんだ?」

不自然に途切れた声に戸惑っていると

『面倒くせぇな、この喋り方。フツーにやるわ。俺が赴任してきた審神者ってヤツだ。取り敢えず全員手入れ部屋…いや、庭に来い話はそれからだ』

そう言って放送は切れてしまった。

「何?…今の?」

「さぁな」

「どうする?兼さん、清光。庭に行く?」

「取り敢えず行ってみよ。なんかあったら…斬れば良いしさ」

「だな。じゃ、行くか」

そう言って3人は庭に向かって行った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「随分と手荒な歓迎会だな」

清光達の3人が庭に出てきて目に入ったものは粟田口の刀剣男士たちに刃を向けられて尚、不敵な微笑みを浮かべる少女だった。少女は自分の身の丈に迫る程の細長い荷物を背負い庭にある岩に腰かけている。

「即刻出ていって下さい。」

一期一振が丁寧だが、明らかな敵意を出して少女に言う。

「やだね、こっちは仕事なんだ。きっちり更正してもらうぜ。」

微笑みを深めた少女は

「資材ならある。手入れを受けろ」

「嫌だ、と言ったら?」

「引き摺ってでも連れてくね、お前もいつまでも兄弟が傷ついたままは嫌だろ?…一期一振」

その場にいる刀剣男士全員に向かって言った。

「結界がある所が有れば教えてくれ、壊しちまうから」

刀剣男士たちがざわめくのを気にせず手入れ部屋に向かった。しばらくその場で戸惑っていた刀剣男士たちも手入れを受けに歩いて行く。結果ほぼ全員の手入れがその日のうちに終わった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「よーし、出来た」

身夜は、大量な料理を食卓に並べた。刀剣男士たちの手入れを終え、食事を作り終えたところだった。先程の騒ぎで動じた様子は一切無い。

(あの時みてぇに本当に死ぬ訳じゃねぇ、何を恐れる必要がある?)

身夜は思考のままに記憶を探る。まだ獄卒になっていない頃。人間の頃の記憶を。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

風餓、身夜身世は明治時代のとある華族の家に産まれた。父母は優しく当時不吉だとされていた双子の身夜と身世にも兄と同じように愛を注いでくれた。

しかし、幸せは長くは続かなかった。身夜と身世が七つの時のある日、屋敷に侵入者が来た。身夜たちの父は大きな地位についていた。それを恨んだ他の家が暗殺者を雇っていたのだ。蔵で本を読んでいた身夜と身世は異変に気付かなかった。

とうとう侵入者が蔵に来た。何事かと呆然としていたが、相手の明確な殺意に気づいた。相手が短刀を振るう。間一髪で避けたが、殺らなければ…殺られる。手近にあった大太刀を抜刀する。本来騎乗して使う大太刀を七つの少女が使えるはずがなかった。しかし火事場の馬鹿力のせいか、侵入者の首を落とした。

身世を守れた、そう思った瞬間背中に焼けるような痛みが走った。侵入者は二人いた。そして身夜と身世そして別室に居た風餓と父母は殺された。3人は死後、屋敷に留まっていたが、肋角の説得に応じ獄卒となった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

(…?)

短くない時間、数百年前の記憶を掘り返していたが、何かの気配を感じ身夜はゆっくり振り返った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ