菖蒲の物語〜獄都事変〜
□すれ違い
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斬島視点
「田噛ー田噛ー!!」
「うるせぇ」
いつもお前は…
「…許してやるから、殴らせろ」
「ごめんなさいぃぃぃぃ」
あいつばかり…
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俺は、田噛が好きだ。他の仲間に対して持っている家族愛ではなく、恋愛対象として。明らかに実りようの無い恋だ。
俺も田噛も男なのだから。田噛にこの思いを知られるわけにはいかない。軽蔑され、避けられるのは、火を見るより明らかだ。そうなるなら…仲間として、せめて……側に居たい。
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田噛視点
俺は、斬島が好きだ。他の奴等に対しての好意とは別の…、言い表せねぇ。
だりぃ。正直この思いが成就するなんざ思ってねぇ。俺もあいつも男だ。俺があいつの立場だったとする…ありえねぇ、気持ちワリィ。告白なんざしたら、結果は見えている。避けられる。俺に出来るのは、この思いに蓋をして仲間として、振る舞うことだけだ。
佐疫視点
最近、斬島の様子がおかしい。俺や平腹達の前じゃ変わらないけど…田噛に対して随分よそよそしい。田噛もそんな感じだけど…。仕事もあまり一緒に行って無いみたいだけど、大丈夫なのかな?
「佐疫ー、肋角さんが呼んでるよ。」
「…木舌!!ありがとう、行って来るよ」
「どういたしまして…随分ボーッとしてたみたいだけど、どうしたの?」
鋭い、さすが最年長
「いや、ただ斬島の様子がおかしいなって…思ってね。」
「確かに…」
斬島の方を見ると田噛と平腹がいた。平腹とは普通に話してる。…けど、斬島も田噛もどこかよそよそしい。
「違和感駄々漏れだね。」
「本当に…」
恐らくこの違和感には当人たちだけは、気づいてないんだろう…。谷裂や平腹も気付きかけているのに…。
「…佐疫」
「何?木舌?」
「アレ以上発展しないならさ…俺が斬島を奪っても良いよね…」
俺の親友は、随分愛されているらしい。
「俺も負けないから。…肋角さんの所行って来るよ」
ライバルはとにかく多いらしいが、最終的に斬島が一番幸せになれるように…、そんなことを思いながら肋角の執務室に足を進めた。
斬島視点
今日は、田噛と平腹との任務だ。正直、緊張しているが、仕事は仕事。切り替えをしなくては。何時ものように、平腹が何処かに突っ走り、田噛がサボり、結果俺は1人で探索している。今回の亡者は、失恋し命を絶ったらしい。
「…失恋か」
告白もせず諦めている俺に比べれば、この亡者はどれだけ勇敢だったことか。称賛したいところだが、この亡者がしたことは、罪だ。
「許されざる者には…罰を」
気を引き締めていかなくては…!!
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田噛視点
今日の任務は、平腹と斬島とだ。ボロがでないか心配だが…何時も通りにできたのか…?確か亡者は、失恋し自殺したらしい。諦められない…か。
「俺も同じだな」
いや、亡者の方が勇気があるか。
「とりあえず…任務だな」
告白ってどうやんだ?
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斬島視点
「お前が亡者か?」
ビルの屋上には、黒髪の女が佇んでいた。俺が声をかけるとゆっくり振り返った。
『…誰?』
「俺は獄卒だ。お前を閻魔の御前へ連れて行く」
『そう…なら私の話、聞いてよ。そしたら、おとなしくついて行くから。』
「…分かった。話を聞こう」
面倒だがそれで解決するなら、良いんだろう。
『ありがとう』
そして亡者は語り出した
『私、幼馴染みが好きだったの…でも彼は私の親友と付き合っていたの。彼が好き、でも…親友も大事なの。だから死んだのに、他人に迷惑かけるなんてね…
ありがとう、獄卒さん。話を聞いてくれて』
「あ、あぁ」
『獄卒さん、好きって感情は伝えた方がいいと思うわ。』
「何故…分かった?」
『勘よ』
亡者を連れて獄都レポートへ戻った。亡者を引き渡して、館に帰る。
「斬島」
「…!どうした、田噛?」
「……だ」
「?すまない、聞こえないのだが」
「お前が好きだ」
田噛は、今なんと言った。俺が好き?田噛の隣にいれるのか?
「オイ、泣くほど嫌か?」
「ちがっ…その…」
「なんだ」
「俺も好きだ」
腕を引き寄せられた、そう思ったら抱き締められた。
「妙な遠回りしてたな」
「どうした?」
「何でもねぇ、もう離してやんねぇからな」
「あぁ」
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オマケ・田噛視点
「やぁ〜玄関でお盛んだね〜」
「田噛、斬島にナニしてるの?」
此処玄関だった。つーかお前ら武器取り出すな。どうやら、俺の恋人は愛されてるらしい。まぁ、奪われる気はねぇがな。