菖蒲の勾配

□獄卒がブラック本丸の審神者に!?
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(気配が1、2…7いや8かな?短刀たちと誰かの保護者か?)

身夜が広間へ行くと何者かの気配があった。言うまでもなく付喪神たちだ。小さく聞こえるざわめきの原因は自分が来たことか、作っておいた料理のせいか、ともかく話を聞いてみなければ…。一思いに襖を開けた。

「あっ」「審神者?」「復讐…」「ひぃ」「なんなのですか…?」「っ…!」 「何事ばい!?」

「下がれ、兄弟!!」

「…え〜と、乱藤四郎、骨喰藤四郎、小夜左文字、五虎退…今剣と平野藤四郎、博多藤四郎…で薬研藤四郎だよな?」

先程清光たちから聞いた名前と顔を照らし合わせながら呼べば途端にキョトンとした困ったような顔をされる。

「あぁ、それ食って良いからな。お前たちに作ったから」

「おいおい、それで食い始めると思ってんのか?審神者。俺っちたちは人間なんざもう信じる気はねぇよ」

薬研がそう言えば周りの短刀たちも頷く。見事に人間不信になってしまっているらしい。騒ぎを聞きつけたのか刀剣男士たちが次々に広間へ駆けつけてきた。

「おーおー、ドンドン集まるな…。いいや、説明するから全員座れ」

短刀たちは狼狽している上に、その保護者たちはあからさまに警戒している。先程までフリーズしていた新撰組の刀剣男士たちも集まり、現在広間には大倶利伽羅、へし切り長谷部、燭台切光忠の3振りを除く26振りが集まっていた。

「うっし、だいたい集まったな。…んじゃとりあえず目的だけでも言っておこうか…」

「その必用は無いね、無駄なことをするのは雅じゃない。あと、君は僕が昨夜確かに斬り殺した…何故生きている?」

身夜の言葉を遮り、歌仙が発言する。しかし、身夜からすれば歌仙だろうが、違う刀だろうが話のこしを折られるのは予測がついていた。そして、殺されたのに生きている理由を聞かれた方が話は早く進む。

「その質問の答えも一緒に話す。とりあえず食えよ、飯。腹減ってんだろ?」

「僕たちは刀だ、食事など必用ない。あったとしても、人間が作ったものは口に入れない!」

「……歌仙、御手杵と日本号が、もう食べてる」

「はぁ!!!???」

歌仙が身夜に怒鳴っていると、いつの間にか隣にいた小夜がボソリと言う。雅ではない大声を上げて小夜が指差す場所を見ると確かに御手杵と日本号が茶碗に米を大盛りにつぎ、おかずと共にかきこんでいる。予想すらしていなかった光景に歌仙は思わず馬鹿野郎二人を全力で殴った。

「いってぇな!!歌仙何すんだよ!?」

「いきなり殴るなよ、飯が溢れるだろ?」

「何を呑気に食事してるんだい、君たちは!?人間なんて信用して良い訳無いだろう!!それに僕たちは刀だ、食事なんていらないんだよ」

「いらなくはねぇだろ?こうやって腹減ってなにか食いたいと思うんだからよ?ほら、お前たちも食え食え。じゃねぇと俺たちが全部食っちまうぞ」

「そーだぞ。しかし、なかなか旨いなぁ」

歌仙の怒声に一旦食事を止めた日本号が答え、短刀たちに言った。お腹が減っていたのだろう。美味しそうに食べている御手杵と日本号に言われ、短刀たちは我先にと皿を取り食事を始める。それを見た保護者たちは話を聞くくらいなら、と思ったのか一先ず座り弟たちの世話を焼き始める。

「よし、んじゃとりあえず名乗る。俺は身夜、獄卒だ」

「獄卒って地獄の鬼のか?」

「じゃあ、あなたはぼくたちをさばきにきたんですか」

「皆似たようなことゆーな。つか、ちげぇし」

新撰組の刀剣男士たちを見ながら苦笑する身夜に更に質問を重ねていく。

「なら、どげんして来たん?」

「お前を『こーせい』させろってさ。参っちまうよな」

「僕たちは人間なんかには従わない」

「だ〜か〜ら〜、人間じゃないんだって。何回も言わせんな、馬鹿野郎」

「なんなんだい、その雅の欠片もない口調は!!」

「堕ちた神に言われてもなぁ?」

突如として始まった口喧嘩に唖然としながらも傍観している太刀と石切丸、宗左、山姥切。料理を口いっぱいに頬張る短刀たちとその世話をする鳴狐、マイペースな骨喰。好物の取り合いをする沖田組に和泉守の世話をする堀川。そして歌仙と身夜の喧嘩を悪化させるように野次を飛ばす鯰尾と陸奥守、御手杵と日本号に岩融。

この後、佐疫と斬島、身世、風餓が様子を見に来て更なる波乱が巻き起こるのだがそんなことは誰にも予想出来るわけなかった。
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