戦国BASARA

□影は人に為る
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 俺様は影。
 けして陽に当たることなく忍びよる。
 誰の背後を取るのもお手のもの。

 俺様は風。
 誰の目にも映らずに、通った後にはただ木の葉が揺れるのみ。

 俺様は夜。
 月や星の、わずかな光すら届かぬ闇で生きるもの。
 俺様の世界はいつだって真っ暗。

 俺様は猿。
 人を騙し欺き嗤うもの。
 ずる賢さでは天下一。

 俺様は――
 
「誰かいるのか?」

 …………。

「誰か、そこにいるのだろう? それがし、供の者とはぐれてしまって……。すまぬが、この辺りの者ならば道を教えてはくださらぬか?」

 ガキ一人がこんな森で迷子か。
 身なりからして武家の子か?
 騙して金でも巻き上げようか……
 
「……あの! 道を教えてはくださらぬか!」

 それにしてもこのガキ、さっきから誰に向かって喋ってるんだ?
 
「……そこか! やっと見つけたぞ! 気配はしたが姿が見えなかった……貴殿は、もしや忍びの者か?」

 ……え? あれ? もしかして俺様に話しかけてる?
 え、いやいやちょっと待って、ていうかこっちに近づいてくるし!
 
「先ほどから話しかけているというのに、なにゆえ黙っているのだ? ……あ、そうか、すまぬ、そういえばまだ名を名乗ってはいなかった。それがしは、武田信玄公に仕えし真田家の弁丸と申す」

 いやいや、そんなご丁寧に挨拶されても!
 深々とお辞儀までしちゃって!
 
「名乗りを忘れるとは失礼でござった。あいすまぬ。ところで、貴殿は……」

「弁丸様ー! 弁丸様どちらにございますかー!?」

「……うむ? あれは供の……あれ?」

「あ! 弁丸様! やっと見つけましたぞ! 勝手な行動は慎むよう、あれほど言うたではありませぬか! ……ともかく、ご無事で何よりですが」

「……おい、さっきまでここに人がいたのだが見てはいないか? 一瞬だけ、目を離した隙に消えてしまって……」

「人、にございますか? いや、ここらには人が住まうような集落はありませぬぞ。街道でもないゆえ、滅多なことでは人は通らぬかと。だからこそ、我らがお忍びで物見遊山へ行く際に使えるのではありませぬか」

「いやでも確かに人がいたのだ。真っ黒でまるで影のようであったが……」

「狐にでも化かされたのではありませぬか?」

「違う! あれは間違いなく人間だったのだ!」

「そうですかそうですか」

「信じてないな? あ、今笑ったか!?」









 ……ふう。やっと行ったか。

 まったく、なんだったんだあのガキは。

 俺様が見える人間なんて……いや、それよりも。




 俺様が――――






 ――――――――――――人間?























(……なーんてね、なに今さらあんな昔のことを思い出したりしてんだか。やだねー……昔語りなんて俺様の性に合わないでしょ)

「佐助! 聞いているのか! 次の戦場へ参るぞ、気を抜くな!」
「はいはい、聞いてますよ真田の旦那。さーて……猿飛佐助、今日も忍び参りましょうかね」




 ――猿飛佐助。



 ――陽が照らす蒼き天を、風の如く疾く駆ける者。





 『蒼天疾駆』

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