戦国BASARA

□強く、強く
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煙る荒野。
くすむ視界。
冷たい雨。
血の匂い。

優しい手に引かれて泥を踏む。
草鞋に染みて凍てつく足。
見上げた視線をふと落とす。

ぎょろりとした目玉と目が合った。
思わず足がすくんで立ち止まる。
見渡せば無残な死体があちらこちら。
無念と恐怖をそのままに、
打ち捨てられたただの『もの』。

不憫だ、それだけ思った。
と同時にある言葉を思い出す。
憐れなそれから目が離せない。

すると、どうしたんだい、と優しい声が降ってきた。
凍った身体がやんわりと熱を取り戻す。
一瞬の躊躇。
しばし悩んで口を開く。

「お寺の和尚様が言っておられました。
 悪いことをすれば必ず自分に返ってくると。
 だから、人を騙したり傷つけたりしてはいけないのだと。
 殺しは悪いことですよね。
 いつか、私もこんな風になるのでしょうか」

優しい声は少し戸惑いながらも答えてくれた。

「そうだね。無意味な殺生は悪いことだ。
 でもね、大義のある戦では時に殺しも正義になる。
 君にはまだ難しいかもしれないけれど、ね。
 それに、君なら大丈夫さ。
 これからきっと強くなれる。
 誰にも負けないように強くなるんだ。
 君自身が豊臣の力になるんだよ、佐吉君」

力、という言葉がやけに重く胸に沈んだ。

「強く……」

沈んだ言葉は私の内で、太く大きな柱となるようだった。

「本当の強者は人を傷つけたりしないものさ。
 人を騙し陥れ裏切るのは、いつだって弱者のすることだ。
 君はそうなってはいけないよ。
 ただひたすらに強くなるんだ。
 その力は君自身を、そして君の大切なものを守ってくれる」

私の大切なもの……。
秀吉様と半兵衛様、それから――

「はい、半兵衛様。
 私はこれから強くなります。
 強くなって、秀吉様のお力になりとうございます!」

少年の輝く瞳に、この先の未来を見た気がした。

  

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