戦国BASARA

□われを呼ぶものは
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背が冷たい。
地に倒れているのか。

身体が動かぬ。
瞼が重い。
今は夜か、それとも昼か。

どうやら耳も遠いようだ。
何の音も聞こえぬ。

覚えはないが、戦場で倒れるとはそういうことよな。
恐らく傷を負っていると思うのだが、不思議と痛みはない。
むしろ常より心地よいくらいだ。

どうやらすべての感覚が消えたらしい。
死とは無なのやもしれぬ。

抵抗などする気力もなく、大人しく受け入れ、時が経つのを待つ。
われは浄土には行けぬであろ。
地獄の閻魔とやらにも興味はあるが。

――遠のく意識にいつぞやの夢を見た。
太閤に賢人、暗と左近と、それから――。

聞こえぬはずの耳に、ふと懐かしい声が響く。
……これも最期の夢か。

われの名をひたすらに呼ぶ声を、うるさいほど近くに感じる。
なにも感じぬ身体に温かな熱が宿る。
冷たく凍っていたはずの身体が、声の主に触れられた指が、背が、顔が、その温もりに溶かされていく。

消えた感覚が帰ってくる。
瞼は軽く、耳もはっきりと、手足も動く。
痛みと息苦しさにも襲われて、勢いよく咳き込んだ。

刑部、刑部、と何度も呼ぶ声に、ついにわれは両目を開く。
瞬間、温かな雨で視界がかすんだ。

懐かしい顔。
雨の正体はこやつか……。

震える唇をわずかに開く。
真っ赤な血を吐きながら、やっとの思いで声を絞り出した。






 「ぬしに呼び戻されようとはなぁ……三成よ……これはわれにとっての幸か、不幸か……」







自身が穏やかな微笑みを浮かべているなど、知る由もなかった。
ただ傍で支えていた三成だけが、同じようにうっすらと笑みを浮かべた。

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