戦国BASARA

□似て非なるもの、恋と憧れ
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「……左近……左近、聞こえているか」
 ――え? 三成様?
「今夜は冷える……貴様の床に入れろ」
 え、いや、ちょっと!? えっ!?
「ああ……やはり貴様の体温は心地良いな」
 ああああの!! そんなにくっつかれるといろいろヤバいんですけど!
「貴様、私の命令ならなんでも聞けると言ったな?」
 そりゃあ三成様の命令なら――って、え?
「……左近、このまま私に抱かれろ」
 ――はいッ!? だ、抱かれろって……あの、でも俺男だし……って三成様どこ触ってんスか!? ちょ、え、そこはあの……三成様……あッ――。
 










…………。

















「――うわぁぁぁぁ!!」
 自分の声に驚いて飛び起きた。外で休んでいたのであろう鳥たちが、ばさばさと大袈裟に音を立てて逃げていく。
 布団には自分一人だけ。三成様の姿はどこにもない。部屋を見渡しても、いつもと何も変わっていない。
「……ゆ、夢かぁ……」
 俺は座ったまま深く項垂れた。股間にはまだ、気持ちの悪い違和感が残っている。あの夢が、鮮明に脳裏に焼き付いて離れない。
 恥ずかしさのあまり熱くなった顔を、両手で覆った。
「俺はなんてことを……これからどんな顔で三成様に会えばいいんだ馬鹿……」
 三成様は俺の憧れの人だ。強くてカッコよくて秀吉様のために命張ってて――とにかくすっげー尊敬してるお人なんだ。
 そんな人をあんな卑しい夢に見ちまうなんて――俺は三成様の部下失格だ。

 いや、そもそもなんで俺はあんな夢を? 
 確か前に刑部さんが言ってたな――夢はその人が真に願っている事象を映し出す――だっけ。でもそうすると、俺が見たあの夢は俺が本当に願ってることになるわけで――俺は三成様と衆道する関係になりたいのか? 
 ……そんなわけないだろ。俺はただ三成様を尊敬してて、いつか自分もあんな風にカッコいい男になりたいって憧れてるだけだ。それ以上の感情なんてない。現に今、あの夢のせいで罪悪感と自己嫌悪でいっぱいなんだ。夢とはいえ、三成様を汚してしまったような気がして――恥ずかしさと申し訳なさで死にたいぐらいだ。
 きっとあれは何かの間違いだ。相手を間違えたんだ。ほら、寝る前に珍しく三成様に呼ばれて晩酌に付き合ったし、それで三成様の顔が頭に残ってたんだな。だからいつもは可愛い女の子が出てくるところを、間違って三成様が出てきちまったんだ。うん、そうだそういうことだ。
 よし、これでもう考えるのは終わりっと。三成様に挨拶に行かねぇと!


「三成様ー、おはようございまーす」
 三成様の私室の前で声をかけると、中から低い声が返って来た。
「左近か。入れ」
「はーい。失礼しまー……」
 障子を半分ほど開けたところで、こっちを向いて座っている三成様と目が合った。鋭い眼光はいつも通り――のはずなのに、今日はその視線がやけに痛い。言い終わらない内に、俺は開きかけた障子を勢いよく閉めてしまった。
「――おい、左近。それは何の真似だ」
「い、いやぁ……べ、別に何もないっスよ」
「貴様が何もないと言って、本当に何もなかったことがあったか」
「う……」
「私に言えないことか」
「……あ! 俺、そろそろ朝の鍛錬に行ってきます! じゃ、じゃあまた後で!」
 いたたまれなくなって、俺はその場から逃げ出した。顔が火傷したみたいに熱い。三成様の顔を見たら、夢の中の三成様を思い出しちまった。俺に覆いかぶさる三成様の、薄く緑がかった綺麗な目――やめよう。これ以上思い出すべきじゃない。
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