戦国BASARA

□悦び
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 この高ぶりはいつからだったであろうか。
 何も感じ得ないはずの我が身に、確かな高揚が生じたのは。
 
 人を人とは思わぬ。所詮は我が盤上の駒。使えねば斬り捨てるが常であった。そこには一片の感情も感覚もない。我は何も抱きはしない――はずだったのだ。

「――毛利! てめぇ、また俺らの海を奪いに来やがったのか!」
「……ふん。瀬戸内の海はいつから貴様の物になったのだ、長曾我部」

 それは海の向こうの目障りな海賊共とて同じこと。
 安芸の安寧に邪魔な輩は、塵一つ残さず消し去るのみだ。日輪の加護を受けし我の前では、いかなる敵も脆弱な捨て駒と化す。いくら抵抗しようと無駄な足掻きなのだと、下賤の者はなぜわからぬのか。
 そうだ、忌まわしきあの鬼も他と違わぬと思っていた。

「貴様では我には勝てぬ。いい加減わからぬか」
「へっ……くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ。てめぇなんかにこの俺が、西海の鬼が、負けるわけねぇだろうが!」
 この戦も、我が毛利軍の勝利で間違いはなかった。奴の船はことごとく水底に沈め、その兵の多くも討ち取った。もはや勝ち目などないはずだ。降伏するはずの戦況だ。
 にもかかわらず、奴には一向に諦める気配がなかった。敗北の恐怖や絶望など微塵も感じられない。いや、むしろその瞳の一層のぎらつきはなんだ。その笑みはなんだ。その余裕は、勝利の自信は、一体どこから湧いてくるというのだ。
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