オリジナル

□乙女は夢を見る
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 彼が好き。大好きなの。

 彼の全部が私の理想だった。顔も髪型も体型も服装も、喋り方とかちょっとした仕草、意志の固いところとか喧嘩が強いところとか真っ直ぐで頑固でちょっぴり照れ屋さんなところとか、他にもいっぱい。とにかく全部が大好きなの。こんなに完璧な人どこにもいない。今まで出会ったどの人よりも最高。まさに非の打ち所がないって感じ。

 私は毎日毎日彼を眺めて夢を見るの。私が彼の恋人だったら? 家族だったら? 親友でもいいわ、とにかく彼に近付きたい。彼の視界に入りたい。彼の思考を私でいっぱいにしたいの。
 でもだめ。彼は私を知らない。私という人間が存在していることも、それを知らせることもできない。だからこの想いは伝えられない。どうやったって近付くことなんてできない。遠く遠くから一方的に眺めることしか叶わない。
 どうしてなの? こんなにも好きなのに。彼を想うだけで、胸が高鳴って身体が火照って仕方がないのに。愛しているのに。全部本物なのに。

 ――ねぇ、今は無理でもいつかその声で私を呼んで。その腕で私を抱いて。ずっとずっと愛し続けるから。あなただけを見つめ続けるから。

 さぁ、今日も彼に会いに行きましょう。彼の微笑みが眩しくて直視できないけれど。思わずその輪郭をいやらしくなぞってしまうけれど。この指につくインクですら愛おしいの。そして、画面の向こうの彼に囁かれたなら――




 ――ほら、もう現実になんて戻れない。

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