ポケモン

□秘伝要員の話
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ずっと、疑問に思っていた。

ポケモントレーナーは、バトルのために
ポケモンを捕まえるのだと思っていたから。

僕はトレーナーのポケモンなのに、
一度もバトルをしたことがなかった。

他のみんなが強いから?
弱い僕は必要ない?
そう考えて自分を納得させようとした。



そんな僕が唯一やらせてもらえることといえば。

木を切り倒す。岩を砕く。大岩を動かす。

それが僕の仕事。

それだけが僕にも出来ること。

もっと、みんなのように君の役に立ちたいのに。

僕にはこれだけしか出来ない。

大好きな君のこと、疑いたくはないけれど。

もしかして君は……僕が嫌いなの?
もしも。もしもそうなら。

いつも傍にいさせてくれるのは。

誰よりも、ずっと長く、ずっと近くに置いてくれるのは。

……なぜなんだろう?



長い間、ずっとこんな風に思っていたんだ。

でもね。

あの日の君の言葉を、僕ははっきり覚えているよ。

「……やっぱり、あなたがいないとダメだね。
マッスグマがいないと、私、どこにも行けないね。
他のみんなはバトルに勝てるように育てたから、
誰もあなたの代わりはできないの」

――そうか。そうだったんだ。

僕は、ちゃんと君の役に立てていたんだね。

他の誰にも出来ないことが、僕には出来るんだ。

……僕だけに。

それって、ちょっと特別だよね。

君の、特別。

僕はなんだか嬉しくなって、君の頬を舐めた。

君は、どうしたの、と少し戸惑っていた。





たとえ戦うことは出来なくても。

目立つことは出来なくても。

僕だけが唯一出来ること。

君のために。

仲間たちのために。

今はもう何も疑うことなんてない。

僕は自分のこの力を誇りに思う。

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