戦国BASARA

□悦び
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「野郎共……すまねぇ……すまねぇっ!」
 血に塗れた部下を腕に、奴は涙ながらに詫びた。たかが捨て駒の一人や二人――我が斬り捨てたのは幾百だが――を失ったとて、あの要塞があれば致命的な痛手にはならぬはずだが。
 

 日輪が眩しく輝いているというのに、足元は生温い水で湿っていた。ぴしゃりと跳ねた滴が、我の履物に赤黒い染みを作る。邪魔な石を足蹴にすると、長曾我部のいかつい槍と怒号が飛んできた。
「何しやがる! その足を退けろ毛利!」
「……何を怒る? 我は邪魔な石ころを退かしたまでよ」
「石ころ……だと? てめぇ……本気で言ってんのか」
 長曾我部が獣のように低く唸った。我を睨みつける目が一層険しくなる。
 期待通りのその反応に、思わず口元が緩んだ。慌てて唇を引き結んだものの、上手く隠しきれたかどうか。我の望むものは、奴のこの憎悪に染まった視線に他ならなかった。

「野郎共をこんなにしたてめぇを! 俺はぜってぇ許さねぇ!」
 
 ここは船の上だ。投石や焙烙玉はあれど、ただの石ころなどはない。我が蹴飛ばしたそれは、もはや形も残していない小さくなった人の肉であった。
「そうか。この汚いものは貴様の部下であったか」
「とぼけんじゃねぇ! てめぇ、最初からわかっていて言ってやがるだろう! 野郎共をこんなにしたのは、てめぇ自身なんだからよぉ!」
 びりびりと響くその声が、この身に新たな興奮を宿したことなど、奴はきっと思いもしないだろう。
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