NO.6

□浴衣の日
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 ドーンと打ち上がった花火を揃った首の動きで追いかける。空で弾けた花火を見て、片方は目を輝かせ、片方は片肘着いたまま何の反応も示さず、隣で感嘆している相方の横顔をちらりと盗み見た。

 
 紫苑とネズミの二人は近所の川で19時から行われる花火大会の花火を見に近くのカフェへ来ていた。


 お祭りで屋台もでてるしせっかくだから土手で見よう、と紫苑は言ったがネズミは、どうして窮屈な人混みの中へわざわざ出向かなきゃならないんだ、と言って紫苑の提案を制した。


 悔しがった紫苑はお祭り気分を味わえるようにと浴衣で出掛けることを提案した。人混みの中へ行くことには否定的なネズミだが、花火を見ること自体はさして嫌な気はしないらしく、楽しみにしている紫苑の姿に感化されてか、テラス席から花火の見えるこのカフェを選んだ。


「すごいなネズミ、ここからでも案外大きく見えるんだな、すごい迫力だ!」


 はあぁ……、と見事な花火に讃歎した息が漏れる。既に着崩れした浴衣のことなどはお構いなしに、瞳で、首で、花火の行方を追いかける。好奇心の怪物が目覚めたなと密かにネズミは思案した。


「それにしてもきみは随分とつまらなそうにしているんだな、こんなに精妙な花火が目の前にあるっていうのに!」

「あんたが無邪気すぎるんだ」


 そう言って、楽しそうで無邪気なそんな紫苑の姿を視界の端に捉えながら、たまにはこんなのもありか、と少しだけ口元を緩ませた。


 見上げられていた紫苑の顔がくるっとネズミの方へ向けられる。なぁネズミ、と笑顔の口元がその名を呼んだ。


「やっぱり来年はお祭りにも行ってみようよ」

「面倒じゃないか?」



 ご所望の花火も見終わらぬうちに早くも来年の話をする二人の上に大輪が弾けた。



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