おそ松さん

□松野カラ松代行作戦
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男は少し前を歩く見覚えのある背中に声をかけた。

「カラ松!」

声が聞こえたのか『彼』はピタリと立ち止まって左右を見回している。
その背中にもう一度声をかけた。

「カラ松!」

同時に肩を叩くと『彼』が振り返る。

「久しぶりだなカラ松」

男の事が思い出せないのか眉を寄せて考えているカラ松に男はニッコリと笑った。

「覚えてないか?ほら、高校の時同じ部活だった・・・」
「・・・・・・あぁ!」

しばらく男の顔を見つめていたカラ松は、何かを思い出したのかパッと笑顔になって手を叩く。

「久しぶりだなぁ!元気だったか?!」
「あぁ。お前は?」
「俺も見ての通りさぁ!」

大袈裟に両手を広げるカラ松に、男は僅かに苦笑して見せた。

「お前は相変わらずだな!元気そうで安心したよ」
「それで、どうしたんだ?」
「あぁ、そうだった。ちょっと頼みたいことがあってな」
「んん?どうした。何でもこの俺に言ってみろ」
「ははっ!頼もしいな!!実はな、」
「あ!待ってくれ!!」

何かを思い付いたようにカラ松が男の言葉を止める。

内心舌打ちしながらカラ松を見ると心から申し訳なさそうに眉を下げたカラ松が上目遣いに男を見た。

「すまない。えっと、誰だったかな?」

その言葉が男の耳に届くまで少し。
理解した瞬間男は爆笑してカラ松の肩をバシッと叩いた。

「今さらかよ!!」
「すまない」
「あぁ!いいさ。俺の名前はな、」

男が告げる名前を『カラ松』は長く伸びた黄色のパーカーの袖で口許を隠しながら興味深く聞いていた。











その日十四松は一人きりで商店街を歩いていた。

別に何か用があるわけでもないけどデカパン博士のラボにでも行こうかな。そんな風に考えていた矢先に、『カラ松』と3つ上の兄を呼ぶ声が聞こえて思わず足を止めた。

カラ松にーさんがいるの?

キョロキョロと周りを見回してもその姿を見つけることが出来ない。
そもそも次男の匂いを感じないのだ。そばにいるわけがない。
けれどもう一度『カラ松』と声がして。

ポンッと肩が叩かれた。

「久しぶりだなカラ松」

後ろにいる男に十四松は覚えがない。
でも男は人好きのする笑顔で自分を見つめている。

・・・・・・えーっと?

自慢ではないが自分と次男は余り似ていない。いや、元々一卵性の六つ子なわけだからパーツ自体は瓜二つ。『似ていない』と思うのは兄弟間の話で他人からすれば見分けが付かないのだろう。
でもチビ太やトト子ちゃんとか博士にはちゃんと区別して貰えてるから見慣れれば分かるのかも知れない。あぁ、でも色で区別してるのかも。

兄弟たちにはパーソナルカラーがある。

十四松は黄色
カラ松は青だ。

いつもその色の服を着ていて、今日も十四松は黄色のパーカーだ。
『黄色は十四松』と言うのは空気がそこにあるのと同じくらい周りに浸透してるはずなのに。

「覚えてないか?ほら、高校の時同じ部活だった・・・」

男は自分を『カラ松』だと疑ってないらしい。

カラ松にーさんと高校で同じ部活・・・、演劇部の人?
でも高校の頃にはもう自分たちは色分けしていたから、おれとにーさんを間違うはず、ないよね?
じゃあ、もしかしたら他の兄弟とカラ松にーさんを間違えてる?
高校で部活に入っていたのはカラ松にーさんとおれだけ。
だけどおれはこの顔に見覚えがない。

何だか怪しいな。

そう判断した十四松は意図的に顔に力を入れた。

次男は兄弟の中でもカッチリとした男らしい顔。
真顔だと強面でちょっと恐いんだけど、自分たち弟や親しい人にはいつも優しくて穏やかに笑ってくれる。

それを意識してニッコリと笑った。

「・・・・・・あぁ!久しぶりだなぁ!元気だったか?!」

十四松の得意技は兄弟の物まねだ。
何時だったか三男の声真似をして末弟を笑わせた事がある。
その時は声だけだったが、やろうと思えば顔も真似られる。

男は目の前の『カラ松』を見て安心したようにホッと息を吐いた。

「あぁ。お前は?」
「俺も見ての通りさぁ!」
「お前は相変わらずだな!元気そうで安心したよ」
「それで、どうしたんだ?」
「あぁ、そうだった。ちょっと頼みたいことがあってな」
「んん?どうした。何でもこの俺に言ってみろ」
「ははっ!頼もしいな!!実はな、」
「あ!待ってくれ!!」

真似はあくまで真似なのに男は少しも疑っていない。
それが高校以来会っていないからなのか、本当は会ったこともない赤の他人だからなのか十四松には分からない。

でもカラ松にーさんなら相手に覚えがなくても頼み事を聞いてしまいそう。
にーさん、家族以外には冷たいけど気を許した人には優しいからなぁ。

どちらにしてもこの男が誰の知り合いなのか突き止める必要、あるよね。

そう思いながら次男が浮かべるであろう申し訳なさそうな顔をした。

「すまない。えっと、誰だったかな?」

十四松の言葉に男は一瞬呆気に取られたような表情を浮かべたと思ったら高らかに爆笑して十四松の肩をバシッと叩いた。

「今さらかよ!!」
「すまない」
「あぁ!いいさ。俺の名前はな、」

名前を聞いてもやっぱり覚えがないし、自分が把握している中の、兄弟たちの友人だった誰の名前でもない。

やっぱり怪しい。

十四松はその名前をしっかりと脳裏に刻み付けて次男の真似を続行することにした。





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