おそ松さん

□松野おそ松が見た風景
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最初の記憶は真っ暗闇
ゆらゆら揺れるその場所で規則正しい音がずっと聞こえてる。

そばには誰かの気配があって、しかもそれは思ったより多い。
何気なく手を伸ばすとぽよんと何かに触った。

ん?なんだこりゃ?

さわさわ触っていくとそれはぐるりと俺を包んでた。

なんだ。俺こっから出らんねーのか残念。

でもその壁って言うか膜って言うか、ぽよぽよしたそれは思ったより薄いし思ったより隣と近い。
ぽよんと触ると隣の誰かがこっちを向いた。

キョトンとした間抜け面。
そいつは俺を見てへにゃりと笑った。

ーーーっっっ??!!

度肝を抜かされる俺を他所にそいつはニコニコ笑ってぺしぺしと壁を叩いてる。
そうしてる内にひょこっとそいつの隣からもう一人が顔を出した。
こいつもキョトンとした間抜け面だった。

てか、同じ顔?!

二人は同じ壁の中にいるみたいで楽しそうに笑い合ってて、何だかちょっと・・・ちょっと・・・。

ムカッとするなぁ・・・。

って思ってたらドカッと誰かに蹴られた。

いてっ!なんだ?

くるんと振り返ったらそこにも同じ顔したヤツがいて何だか可愛らしく頬っぺたを膨らましていた。
そいつの近くにも同じ顔のヤツが2人もいて、結局俺のそばには5人いるらしい。

そりゃ狭っ苦しいわ。
でも。

ぐっと手を伸ばせば誰かに触れる。
足を伸ばせば同じように蹴られる。

うん。悪くない。

へへへって笑ったら周りからも楽しそうな声が聞こえてくる。



これが俺の最初の記憶。
次の記憶は光だ。

真っ暗闇で息苦しい場所を通り抜けたらそこに光があった。

同時に急激に寒くなって体が動かなくなった。

なっ?えっ?!

さっきまでいた場所では体は自由に動いていたのに今は全く動かせない。手足が重いし息も苦しい。

『思ったより小さいぞ』
『心音異常なし』
『気道確保しました』
『すぐ保育器に移すぞ』
『双子の赤ちゃん産まれます』
『二人とも心音確認出来ません!』
『っ!すぐに人工呼吸だ!』

テンパる俺の耳にいろんな音が聞こえてくる。
そのほとんどは意味すら分からないものだったけど、慌ててる雰囲気は感じられた。

ふっと横を見るといつも隣にいたアイツがいた。

アイツは真っ青な顔をして目を閉じている。
今までも同じような事は何度もあった。その度に俺やアイツと一緒に壁の中にいたヤツや他の誰かが叩いたり蹴ったりして起こしてたんだけど、今はもう一人のヤツも真っ青な顔で目を閉じていた。

ドクンッと体ごと震えた。

『第一子心拍上昇!』
『なっ?!早く連れて行くんだ!!』

心臓がバクバクする。
息が苦しい。
目の前が暗くなる。

なぁ、お前。起きろよ。何で寝てんだよ。なぁ、って。

重たい腕を伸ばしてアイツに触れる。
いつもみたいにぺちぺちと。

起きろって。なぁ!

『待ってください!お兄ちゃんが』

向こうのアイツには届かねぇけど!
おい!お前も起きろよ!!お前が寝てるからこいつが起きねーんだろ!

「カラ松・・・チョロ松」

不意に聞き覚えのある音が聞こえた。
さっきまでいた場所でずっと聞こえてた音だ。
俺たちはみんなこの音が好きだった。

カラ松チョロ松?

ずっと聞こえていたその音に、アイツの向こう側のヤツが『ふぇぇ』って声を出した。

『第三子心拍再開!』
『ぃよっしゃぁぁあ!!』
『第二子は?!』
『ーーまだです!』
『くそっ・・・』
『次の赤ちゃん産まれます!』
『っ!この子も小さい!!』
『心拍・・・微弱です!』
『すぐに呼吸器を!!』

ほやほやと泣いてるアイツがうっすら目を開けて俺を見た。

ーーーもっと、呼んで!アイツを・・・カラ松助けて

頭の中で声が聞こえる。

カラ松?アイツ、カラ松って言うのか?カラ松!おいカラ松!!起きろ!

俺の手がポコッとカラ松の頭に当たった。
瞬間『ふ、やぁぁあ』ってカラ松が大声を出した。

『第二子心拍再開しました!!』
『しゃぁぁあ!』
『四人ともすぐにNICUだ!』
『次の赤ちゃん産まれます』
『この子は大きいな』
『心拍異常なし!呼吸も正常です』
『最後の赤ちゃん産まれます』
『よし!この子で最後だな。うん、元気な子だ』

他のやつらも次々出てきて今までみたいに一気に五月蝿くなった。

みんなふやふや泣いてて俺はホッとする。

『お手柄だな「お兄ちゃん」。さすが「長男」だな』

大きな手が俺の頭を包み込んだ。

お兄ちゃん、ってなんだ?長男?

意味は分からないけど耳に届いたその言葉。

俺はこの先ずっとそれを抱えて生きて行くんだけどもちろんその時の俺はそんな事知るわけがない。
もっともこの時の事は綺麗さっぱり忘れてしまうけど。



だからちゃんと覚えてる『最初の記憶』ってやつはもう少しおっきくなってからの事になる。
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