勇者と魔法使いの物語

□プロローグ
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昔むかしある所に一人の魔法使いがいました。

この魔法使いは『とある事情』で魔物と共生関係になり千の命を持つようになりましたが、魔物のように人間を襲うこともなく、かと言って巷の魔法使いのように魔王を倒しに行く事もなく、ただひたすらマイペースに生きていました。

『ベジタリアンで平和主義者』
それが魔法使いのモットーです。

ある日、魔法使いが自堕落生活を送る塔に正義の勇者が現れました。






「お前を倒しに来た」

剣を抜きながら勇者が宣言します。

「人々を苦しめる魔物め!!」

魔法使いには勇者が誤った情報を得たのだと解りました。

確かに魔法使いは魔物の命を宿しています。
けれど一度も人間に害を為したことはありません。

「それは人違いだぞ」
「何が人違いだ!魔物のくせに!!」
「確かに私はヒトではない。しかし、人間を襲ったことは一度もないぞ?第一肉など喰わん」
「黙れ!そのような言葉に騙されるものか!!」

普通に考えればその通りです。

魔物は人間を襲い糧とする。

この世界ではそれが常識なのですから。

そして魔王がいる限り人間と魔物の戦いは終わらない。
だから数多くの勇者が旅立ち戦いを挑んでいるのです。

今まさに斬りかかろうとしている勇者もその部類でしょう。

「いざ参る!!」

勇者の太刀筋は本物でした。

誤った情報により魔法使いの元へなど寄らず、まっすぐ魔王城へ行けたなら、もしかすると魔王を倒せていたかも知れません。

「少しは私の話を聞け」

勇者の剣を右に左に避けながら魔法使いは説得を試みます。

「私に戦う気はない」
「そっちになくてもこっちには理由がある!!」
「そんなモノ知った事か!」

いくら『平和主義者』でも命の危険があればやり返す事もあります。
千の命があるとは言え、斬られれば痛いのです。

「仕方がない」

ため息混じりで呟いて魔法の杖を出現させる魔法使いの目に、勇者が息を飲むのが見えました。
そして、勇者もまた何かの呪文を唱えます。



―――それは、人間には使えない筈の古代魔法。

混ざり合う二つの魂を分離させるただ一つの魔法です。



「―――――なるほど?私が目障りになったか、それとも取り戻しに来たか」

白い光が充満する中で魔法使いがニヤリと笑いました。



そして次の瞬間。
その場にあるすべての物が光の中にかき消えて行ったのでした。





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