勇者と魔法使いの物語

□黄金の剣士
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ーーー俺達は何処かおかしいんだ。


そう言ったのはカイトだった。


「おかしい?何が」
「だってそうだろう?生き物として自分と同じ遺伝子を求めるのはマイナスにしかならないのに俺達は近親婚を繰り返してる」

何時からなのか、国王は王家の血を引く娘を王妃に迎えるようになっている。
そして必ず王家の血を持たない女を愛妾にしていた。

王妃との間には男と女の子供を。
愛妾との間には男の子を。

二人の皇子と一人の皇女を設けることも決まりごとだった。

カイトの両親、国王と王妃はいとこ同士だ。
そしてラスの母は王妃の侍女だった。

「俺はね、誰かの呪なんじゃないかと思うんだよ」
「誰かって誰だ?」
「例えばエスタの血が他者と交じるのを拒む誰か、とか?俺達の祖先は魔王の依り代と天使だったって、お前知ってた?」
「あぁ。俺は初代とそっくりらしいからな」
「で、セレスが王妃にそっくりだ。しかも同じように翼がある」
「それが?」
「依り代も天使も魔王が求める者だ。だから俺は魔王の呪なんじゃないかと思う」

ただでえ囁くような声だったのがもっと小さな声になってカイトが言った。

「魔王が自分の依り代と魂を移すための天使を求めるために俺達に呪を掛けた、とか」
「だが、セレスは天使じゃない。俺だって‥‥」

魔王の依り代は金髪金目だと言われている。
ラスは確かに依り代だった初代国王と同じ顔と髪の色をしているけれど瞳の色は青だ。
例え人間とは違う血が流れていても自分は依り代ではない確信があった。

そんなラスの心が分かるのかカイトが頷いた。

「でも確実に近づいてる。このまま近親婚を繰り返せばいつか必ず求める者が産まれるだろう」
「だったら止めれば良いだろう。幸か不幸か王家の血を引く子供はセレスを除けば男ばかりなんだから」
「それが出来ないのが呪なんだろう?」

ため息をついて、カイトが唐突に言った。

「セレスは俺が大好きなんだ」
「知ってるが何だ?」
「俺を男として好きなんだ」
「お前たちは実の兄妹だろう?そんなバカな事があるか」
「俺達の間でセレスが一番呪われてるんだよ」

4歳下のセレスは魔王に嫁ぐと決まっているけれどカイトが好きだといつも言っている。

それは兄を慕う妹のようにしかラスには見えなかった。

「お前は?お前にとってセレスは何なんだ?」
「ただの妹だ。今はな」
「今は?」
「まだセレスは子供だからな。だけどこのまま大人の女になって、寝所に忍んでこられたら‥‥拒める自信は俺にはない」

何をバカな事を、とは言えなかった。
何故と言ってラス自身がセレスを妹だと思ってなかったからだ。

けれどそれは口が裂けても言えないことだった。

ラスにとってセレスは守るべき存在。
王家の姫であり、半分だけ血の繋がった親友同然のカイトの妹。

「ラスはどうだ?お前だって半分王家の血を引いてるんだ。多少は呪われたりしてるのか?」
「俺は自分が呪われているとは思ってないな。それに俺はガキを口説く趣味はねぇ。第一俺には惚れた女がいる」
「銀鈴の賢者か。お前は昔から変わらないな」

ラスが絵でしか観たことのない銀髪の魔法使いに心を奪われたのはずっと幼い頃だった。
以来10数年その想いは変わらない。
それをよく知っているカイトは満足げに頷いた。

「俺は城を出る」
「唐突だな。相変わらず」
「このままセレスのそばに居れば遅かれ早かれ魔王の思惑通り近親婚をすることになるからな。だから俺は城を出て魔王を討ちに行く」

近年魔王の力が強まったのか魔物が多く蔓延るようになった。
魔族によって滅ばされた街も増え続け魔王討伐に向かう戦士の姿も多く見えるようになっていた。

「それは皇子の仕事じゃない。俺達近衛兵団の仕事だ」
「近衛兵には城と城下を守ってもらう。特に第一師団には国王を守る役目があるだろう?その師団長に出歩かれたらこっちが困る」
「第一王位継承者がウロウロ出歩くのは良いのか?」
「うん、まぁ。そこはほら、第二継承者がいるわけだしね」
「俺は王座は継がん。国王の椅子には興味がない」

元々愛妾の子供は皇子のスペアだった。
近親婚で産まれてくる子供の多くは、どこかしらに異常があることが多い。
奇形だったり短命だったりしたときのための予備が第二皇子だ。
だから二人の皇子は時を置かずに産まれるよう仕組まれる。
そして同じような教育を受けるのだ。

もっとも長い歴史のなかで愛妾の子が表立って王位を継いだことはあまりない。

例えば短命だったとしても崩御したときには皇子が誕生していることが多いし、奇形なら隠せばいい。

治世を敷くことが難しい時にだけ影から国を支える役目を担い、戦うことが出来ないときには代わりに剣を取る。

それが第二皇子の役割なのだが、第一皇子のカイトには何処にも異常がなかった。
健康で高い知性を持ち剣の腕も立つ。
王としてと資質も高く、非の打ちようがない立派な王位継承者に成長した。

こうなると第二皇子は邪魔な存在でしかなく火種の元だ。

早くからその事実に気づいたラスの母は国王とラス自身に言い諭したらしい。

「俺の継承権は無効になっているはずだろう」
「でも王の子供には代わりない。ま、呪われた宿命を押し付けるつもりはないよ。第一俺は生きて帰るつもりなんだから」

魔王討伐に向かった戦士は誰一人として帰ってきた者はいない。
生きているのか死んだのか、それは定かではないけれど魔王は生きている。

「本当は勇者の資質はラスの方が強いんだけどね。だからセレスの事、頼んだよ」



そう言って城を出たのが18の時。
今から5年前だ。

セレスはカイトがいなくなってもその想いを変えなかった。
カイトだけを想い続け、求めていた。

泣きながらカイトを呼び続ける夜も、強く求めるあまり溜まった熱を自ら慰める時も、ラスは知らぬふりで見守ってきた。

ーーー俺達の中でセレスが一番呪われている

その通りだと思いながら。
そして少なからず自分にも呪いが降りかかっていたことを痛感しながら。





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