勇者と魔法使いの物語

□銀の賢者
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優秀な魔法使いには『二つ名』が与えられる。
それは外見から付けたり使用する魔法具から付けたり様々だ。
けれど名前に『色』が付く者は限られる。

世界に数人。

総じて『賢者』と呼ばれる中に子供がいるなどとは聞いたことがなかった。

「ガキが。寝言は寝て言いやがれ」

ラスの言葉に魔法使いの目が細められる。

「貴様には私が寝ているように見えるのか?」
「お前みたいなガキが賢者だと?んなこと誰が信用するかよ」

ラスの言い分ももっともである。

銀鈴の魔法使いと名乗る少女はまだ10才にも満たないように見える。
魔法使いの見た目が当てにならないのは常識だが流石にコレはないだろう。

そう考えるのが普通だ。

「―――と、言いたいところだがな。コイツのこの『色』。ウチの賢者殿の部屋で見たよな?」
「見たわね。間違いなく」

セレスの目が少女をマジマジと見つめる。

光り輝く白銀の髪と鮮やかな紅い瞳。

銀の髪の娘も紅い目の者も数多くいる
けれど両方兼ね備える者はあまりいない。

セレスが幼い頃よりよく知る賢者が言っていた。

「銀鈴の魔法使いは『白銀の髪に緋色の瞳の女だ』って言ってたわ」
「『そして銀の賢者は数いる賢者の中で唯一魔物と共生している。紅い瞳がその証だ』ってな」

ふわりと少女の髪が宙に舞った。
同時に取り巻く気配が変わる。

「それを知る者はもうあまり残っていないと思ったが……。その賢者、名はジェイド…、いや『黒耀』だな?」
「そうよ。『黒耀の魔法使い』確かに名前はジェイドだったわ」
「そうか……。ならば貴女はエスタの姫か?」

今度はラスの気配が変わる。
けれどそれを宥めるように少女が笑った。

「殺気立たなくていい。ジェイドは古い友だからな。姫君の話も聞いている」
「私はジェイドから貴女の事を聞いてない」

セレスが見たのは黒耀の賢者と共に描かれていた肖像画だ。
そこに写る銀髪の人物との関係は何も語らなかった。

「そうか?」
「第一俺たちが見た銀の賢者とお前は明らかに見た目が違いすぎる。姿代えは賢者でも難しいと聞いたぞ?」
「あぁ、難しいだろうな。アレは命を削る魔法だから」

すべての生き物は年を重ねやがて老いて死ぬ。
それが運命だ。

運命に逆らえばそれなりの『代価』を払わねばならない。

若返りの代価は『命』
残された寿命と引き換えの魔法をあえて使う者は少ない。

「私は別に若返った訳ではないぞ?今のこの姿が残された魔力に見合う姿なだけだ」
「残された、魔力?」
「そうだ。私の魔力は貴女の兄上に奪われたからな」

ふわりと少女が笑みを浮かべた。
そうすると今までのキツさが和らいで優しげな印象に変わる。

「まったく油断した。エスタの王子は魔法に長けていたんだな」
「カイトが?まさか」
「それは本当にカイトだったのか?」

二人の言葉と雰囲気に少女が考える顔になった。

「私を殺しに来た勇者は貴女と同じ金の髪をしていた。武器は剣。人としては達人の部類に入ると思ったが……」
「確かにカイトは金髪で剣士だ。エスタでも1、2を争う腕前だったんじゃねえか?」
「そうね。その代わり魔法はまったくダメだった」

セレスの記憶にはカイトが魔法を成功させた場面がない。

「魔力は強かったわ。だけど致命的にコントロールが出来なかったと思う」

制御が出来なければ魔法は使えない。
例え唱えたとしても暴発する恐れがあるからだ。
特に膨大な魔力と精神力を必要とする古代魔法ならなおさら。

「兄上ではない……?」
「魔法を使ったのならね」
「そもそもお前が『銀の賢者』と呼ばれるなら、なぜ勇者から命を狙われるんだ?普通なら逆だろ」

魔族と戦い魔王を倒すためには『魔法使い』が仲間にいれば心強い。
それが『賢者』なら鬼に金棒である。

間違っても勇者が命を奪いに訪れるなど考えにくいはずだ。

「それはな、私の半身が魔物だからだ」
「人間に害を為すのか?お前の半分は」
「いや、そうではなくて……」

不意に街に流れる空気が変わった。

――匂いが変わったと言ってもいい。

少女とラスが同時に同じ方向に視線を向け、店の中の男たちが立ち上がる。

一瞬遅れてセレスも感じ取った。

結界を破って入り込んだ魔物の気配を。




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