※ぬるすぎるR表現あり











惨めだな、とヘッポコ丸は思った。誰が、と問われれば自分が、と即答出来る。ヘッポコ丸は自分自身が酷く惨めでならなかった。どうして今、憎むべき敵である帝国の、あろうことかツルリーナ三世の正当な後継者であったナメ郎の部屋で、全裸でベットに横たわっているのだろう。ナメ郎に好き勝手にされた身体が軋むように痛む。快楽の残滓が残る脳は、この状況を否定しようと必死になっていた。






どうやって突き止めたのか知らないが、ともかくナメ郎はある日、ヘッポコ丸が修行している閑散とした森に一人で現れた。ポコミの兄がどんなツラをしているのか見たかったのだと、ナメ郎はそう言った。だが、それがなんの説明にもなっていないのは明白であったが…しかしヘッポコ丸がどれだけ追求しようとも、ナメ郎はそれ以上のことを口にすることは無かった。



到底納得など出来ていないヘッポコ丸をナメ郎はなんの前触れもなく押し倒し、そしてそのまま犯した。合意など無い、強姦という言葉が当てはまる、あまりに独り善がりな行為だった。帝王の力に目覚めたナメ郎の前では、新たに身に付けた黒オナラの力などなんの役にも立たず…ヘッポコ丸の身体は余すことなく穢された。








そして気絶している間に、ヘッポコ丸は帝国のナメ郎の自室に連れてこられていた。以来ヘッポコ丸はずっとそこで過ごしている。別に鎖で繋がれているわけでも、縄で縛られているわけでもない。動きの制限は一切無く、いつでも逃げ出すことは可能であるが…ヘッポコ丸はナメ郎の部屋に留まっている。











確かに、ナメ郎の部屋を抜け出すのは容易だ(四六時中ナメ郎が自室に篭っているわけでは無いのだし)。しかし問題はその後だ。そこを出た後、誰に遭遇するでもなく、帝国を抜け出すのは…困難であると認めざるを得ない。帝国は決してツルリーナ三世の一枚岩ではない。帝国内は彼が見込んだ精鋭達が与えられた持ち場で、その力を奮っている。




その者達に遭遇し、そして戦闘となった場合、自分の力がどこまで通じるのか…通じなかった場合、迎える末路はなんなのか…そこまで見据えて、結果ヘッポコ丸はナメ郎の側に居る。ナメ郎を受け入れたのでは無い。決して。ただ、他に選択肢が無いだけ。それだけだった。







逃げる様子を見せないヘッポコ丸に、ナメ郎が何を感じ取ったのかは知らない。しかし毎夜の如くヘッポコ丸の身体を組み敷き、本心かも分からない睦言を囁くナメ郎に、ヘッポコ丸を手放す気が無いのは確かだ。…そして、それに徐々に絆されていっているのを、ヘッポコ丸は自覚していた。






何が悲しくて自分を強姦し、誘拐までしてのけた相手に、絆されているのか。身も心も見えない何かに追い詰められて、楽な方に逃げようとしているだけではないか。自分が惨めだと思うのは、そのせいだった。





「まだ起きてたんだ」





物思いに耽っていると、ナメ郎がシャワー室から戻ってきた。すっかり見慣れてしまった金色の髪はまだしっとりと濡れていて、タオルで乱暴に拭きながら近付いてくる。以前会った時は茶髪だったのでその変化に驚いたが、見慣れてしまえばどうとも思わなくなってしまった。今や金髪の方がしっくり来る程だ。





ナメ郎の姿を認め、ヘッポコ丸は起き上がる。入れ替わりにシャワーを浴びに行くためだ。そのために起きていただけである。ナメ郎と一緒に眠りたかったとか、寂しかったからとか、そんな感情は微塵も無かった。絆されかけている今も、ヘッポコ丸は距離を保ち続けた。必要以上に近付いて、丸め込まれてしまわないように。





「一緒に入ればよかったじゃねぇか」
「誰が…っ、うぁ…」





立ち上がった瞬間、太腿を冷たい何かが伝った。さっきの行為でナメ郎が無遠慮にナカで吐き出した、欲望の証だった。ドロリとまとわりつくその感触に一気に不快感が走り、肌が粟立つ。気持ち悪さに足から力が抜け、よろけた所を前に立っていたナメ郎に抱き止められた。





「おいおい、大丈夫かよ」
「うぅ…誰のせいだと…」
「オレか」





そう言って笑い、ナメ郎はヘッポコ丸の臀部に手を伸ばした。そしてその指先を、しとどに濡れた後孔に、潜り込ませた。





「ひぁっ」





ぐちゃ、と濡れた音がして、次いで背筋に走った快楽に、思わず上擦った声が出た。内壁をナメ郎の指先が撫で、掻き出すように動く度に太腿が更に濡れていった。さすがに立っていられなくなって、完全にナメ郎にもたれ掛かる格好になる。



ナメ郎は脱力したヘッポコ丸を抱きかかえてベットに腰掛け、自分の膝を跨ぐようにさせた。すっかり脱力したヘッポコ丸は、その力の入らない手でナメ郎の肩にかかっているタオルを縋るように握る。悪戯に与えられる快感に、耐えるために。





「ぁっ…ナメろ…」
「なんだ?」
「や…やめっ…」
「なんで?」





出さなきゃ後から大変だぜ──などと笑うナメ郎は、指の動きを緩めようとはしない。時折前立腺に爪を立てながら、自分が注いだ命になり得なかった命を掻き出していく。そして、指を動かす度にビクビクと背を震わせるヘッポコ丸を、まるであやすように髪を撫でてやった。昂らせているのは、自分自身だと言うのに。






ほんの少し前までナメ郎を受け入れていたから、だから感覚が鋭敏になっているんだ、感じてしまうのは仕方無いんだ──脳内でべらべらと言い訳を並べ立てながら、ヘッポコ丸はひたすらに声を押し殺した。快楽に打ち震える身体を、必死に押し留めた。熱に浮かされる顔を見られないように、肩口に額を押し付けた。…そんな自分を、殊更惨めに感じながら。







そのまま耐え忍ぶこと数分、ようやくナメ郎の指が出て行った。全てを掻き出し終えたらしい。やっと終わった…と安堵の溜め息を吐く。無遠慮に蓄積された快感に身体が重いが、そんなものに構わずさっさとナメ郎から離れようとした──のだが、残念ながらナメ郎はそれを許してはくれなかった。後頭部に手を添えられ、距離を取ることを防がれる。





「な、んだよ…離せ」
「つれねぇな。まぁ、でも」





髪と同じく色素の薄くなった瞳が、ヘッポコ丸の真紅を覗き込む。何もかもを見透かすかのような、妙な威圧感を持った、両の瞳。ヘッポコ丸の瞳を覗き込んだまま、ナメ郎は口角を歪ませ、笑う。そして言った。





「アンタ、抵抗しなくなったよな」





それは、あまりに分かりやすい嘲りの色を纏った言葉だった。カッと頭に血が上り、思わずナメ郎の体を強く押した。不安定な体勢であったためそのまま床に落下したが、痛みなんて気にならなかった。床に座り込んだまま、キツくナメ郎を睨み付ける。そんなヘッポコ丸を、ナメ郎はやはり笑って見ていた。





「何怒ってんだよ。本当のことじゃねぇか」
「っ…」
「最初はあんなに抵抗してたのにな。いつからだっけ? アンタが抵抗しなくなったの。…違うか、抵抗すんのを諦めたのは、か」





ナメ郎がベットから下り、ヘッポコ丸の前に膝を付いた。ヘッポコ丸は立ち上がることも出来ないまま、頭一つ分上にあるナメ郎の顔を見上げていた。相変わらず怒りは沸いているけれど…それを凌ぐかのように、言いようのない恐怖が、ヘッポコ丸の心を侵食し始めていた。








──逆らうな。








脳が発する危険信号。その意味を理解出来ないまま、ヘッポコ丸の耳はナメ郎の言葉を一字一句漏らさず聞き取っていく。





「アンタはここから逃げるのを諦めてる。この部屋を出て、確実に逃げ出せると思ってないからだ」






──帝国は決してツルリーナ三世の一枚岩ではない。帝国内は彼が見込んだ精鋭達が与えられた持ち場で、その力を奮っている。





「そしてこの部屋にはオレが居る。アンタを心から愛してる、このオレが」






──毎夜の如くヘッポコ丸の身体を組み敷き、本心かも分からない睦言を囁くナメ郎。



今まで恥じらいもなく囁かれてきた睦言は、間違いなく全て本心であったと…暗にそう言っているのか。





「ここに居れば、少なくとも危険は無いと判断したんだろ? オレと共に居れば、なんの心配も無いって分かったんだろ?」
「っ…ち、がぅ…」
「ウソつき」





トン、と肩を押され、ヘッポコ丸の体は簡単に仰向けに転がった。ナメ郎はすっかり筋肉が落ちて細くなった体の上に覆い被さり、逃げ場を奪う。ナメ郎を見上げるヘッポコ丸の瞳に、最早怒りは見て取れない。そこにあるのは、脅えの色。






全てを暴かれることを、恐れる者の瞳だ。





「オレを拒まないのは、拒めば捨てられるってどこかで思ってるからだ。アンタはオレに見放されるのを怖がってる。オレの想いを受け入れたくないと思う反面、受け入れたら楽になると分かってる。だからアンタは抵抗しなくなった。…無意識なのかもしんないけどさ」





スルリ、指が頬を撫でる。その指が濡れているのに気付いた。それは、先程までヘッポコ丸のナカを掻き回していた方の指だった。まだ赤みが残るその頬に、ベタりと張り付く粘液。鼻をつく生々しい臭い。嫌悪感に肌が粟立つ。





「なぁ、いい加減認めちまえよ。オレは別にアンタを苦しめようなんて思ってない。アンタを愛してるのは本当なんだ。アンタが好きだから一緒に居たい。そしてオレを愛して欲しいって…それだけなんだぜ?」
「っ…っ…」
「自分のこと惨めだって思うのは勝手だがな…そんなもん全部かなぐり捨てちまえば、アンタは楽になれるんだぜ」
「ナメ、ろう…」
「早く堕ちて来いよ、オレのところに」





愛してる――その言葉と共に、喉元に唇を押し付けるナメ郎。まるで自分の愛で、ヘッポコ丸を食い殺そうとしているかのようだ。人体の急所の一つに押し当てられた唇に、ヘッポコ丸が何を感じ取ったのかは分からない。








けれど…まるで求めるかのようにナメ郎の首に回った腕が、全ての答えのように思えた。























鳥籠
(少年は現実から目を逸らした)
(愛され、飼われることを選んだ)




ツイッターの某フォロワーさんに捧げたナメ屁。肉体的に縛るんじゃなく、精神的に縛るナメ郎。五世様は言葉巧みにへっくんを自分の元に縛り付けることに成功したのでした。


時系列はナメ郎が帝国側に行って、ギガを血祭りに上げた後くらい。傷も癒えて、適度に自由な行動が許された時。帝国サイドはナメ郎がへっくんを『飼ってる』のは知ってるけど、ノータッチ。勝手にすればって感じ。へっくんがもし反旗を翻してもすぐに殺せる程度の実力なのは分かってるから。どうぞお好きに楽しみな、そのオモチャ程度で大人しく言うことを聞いてくれるならなんでもいいよ、ってな。


へっくんなんて可哀想なのか(笑)。




栞葉 朱那

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