橙色の憂鬱

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初めて人を殺したのは7歳のクリスマスだった。


今も忘れない、あのナイフが肉に刺さる感触。
アタシを養子に迎えるために用意された素敵な料理とかわいい部屋。

ごめんなさい。
アタシ、ホントはあなたたちを殺すためにきたのよ。
養子なんて嘘なの。
あなたたちが引き取るハズだった本当の養子はもうすでに彼が殺した。
あなたたちが悪いのよ。
だって人に殺してってお願いされたんだから。

そう、アタシは殺し屋だった。

「だった」のだ。


今から話すことは突拍子もないことなのかもしれない。
すでに殺し屋ってところであなたたちは驚いているかもしれないけれど、アタシの人生は7歳のクリスマスと同じように大きく変わっていくのだ。

そう、16歳の夏の始め。
ある男と出会ったことでアタシは大きく変わっていくのだ。



















「一般人の殺し?」

アタシを雇った男はそうだと頷いた。

殺し屋という職業を始めて10年弱になる。
一般人の殺しは初めてだった。

「アンタの依頼ってだいたいヤクザだったり、闇稼業の奴等だったりするのに今回は一般人なんだ。珍しいね」

「実はこの一般人、手を出せないんだよ」


依頼主はアタシの御贔屓のヤクザの幹部だった。

彼の縄張りでクスリの取引が二度も邪魔されたらしい。
その相手は二度とも同じ相手。
なんと高校生だそうだ。


「アンタなら大概どこにいるやつでも殺せるでしょ?」

「バカ言うな。買い被りすぎだ。さすがに殺せないところにいるんだよ」


彼でも殺せないところとは何処なのだろうか。

それに、一般人がクスリの売買を阻止するのも気になる。
アタシはその依頼をその一瞬で気に入った。


「んで、そいつの名前は?」

「木吉鉄平。高校生だ」






















木吉鉄平という男は何故か病院に入院しているらしい。
ただの高校生だ。
どうやらクスリの売買の阻止もたまたまのようで少しこの依頼を引き受けたことを後悔していた。
しかし、一度受けた御贔屓の依頼を断るわけにもいかず、アタシは病院にいた。

変装はバッチリだ。
といってもナース服を着ただけだが。

木吉鉄平と書かれた病室の前に立つ。


ごめんな、アンタを殺すよ。


病室のドアをあけるとそこには茶色の髪の大きな男がいた。


「木吉さん、検診の時間ですよ」

「あれ、新人さんですか?」

「今日からなんです」


検診の時間はすでに調べていたのでなんなく病室に潜り込んだ。


「いつもの本多さんがよかったんだけどな」

「新人じゃ不安ですよね」

「うーん…そういうわけじゃないんですけど」


木吉鉄平は曖昧に笑った。

アタシは小型のナイフを隠しながら彼に近づく。


「本多さんからなにか聞いてないですか?」

「なにかって?」

「実は本多さんと俺はこういう関係だった、とか?」


爽やかな彼の笑顔からは想像ができない出来事だった。

彼が喋り終えるか終えないかぐらいには彼の右手はアタシの腰を引き寄せ、左手はアタシの胸をわしづかみにしていた。

咄嗟の出来事過ぎて驚いた。



「テメェなにしてんだよ!!!!!!」


隠していたナイフを降り下ろす。

冷静さを欠いて単調になったアタシの一撃は先程までアタシの胸にあったその大きな左手で阻まれた。
手首を掴まれたのだ。


「最近の看護師さんはナイフを持ち歩いてるのか?」


真面目な顔でそう呟いた彼にアタシは任務の失敗を感じた。




そう、こうしてアタシと彼、木吉鉄平は出会ったのだ。

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