橙色の憂鬱
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俺がその子を見て初めて感じた感情は多分庇護欲というものに近かったのだと思う。
いつもの本多さんは綺麗なお姉さんだったが、その新人の看護師はどこからどう見ても年下の女の子のようにしか見えなかった。
艶々としたオレンジの髪や、きっちりと切られた前髪に似合うキリッとした、でもどこか幼さを感じる小さな顔。
唇はピンクというよりオレンジで、頬は透き通ったように白く病弱さを感じさせて、目は少しつり目でキツい印象なのだが、その目に宿る光りは彼女の目には何も写していないとでも言いたげな憂鬱さを感じさせるのだった。
身長も150センチないのではと感じさせる小柄な体は細くて白くて、ナース服の胸元は小柄な胸をくっきりとさせていた。
正直職業体験かと思ったのだが、新人なのは確からしく検診は一人できたし、検診の用意手順に間違いはなさそうだった。
しかし、気になったことがひとつある。
この病院ではナースは名札をつける規則がある。
彼女は名札をつけてはいるが、検診の用意で屈んだ彼女の名札を見たとき、その裏にあるはずの関係者用のICカードがなかったのだ。
「あのさ、本田さんから何か聞いてないですか?」
鎌をかけただけだった。
本多さんと俺はただの看護師と患者だった。
「こういう関係だった、とか?」
彼女を引き寄せ、触れた。
あ、やっぱり胸小さい。
すごくいい匂いがする。
とかそんなことを考える暇はなく、
彼女は顔を真っ赤にして何かを降り下ろしてきた。
バスケをやってたからか反射神経はそれなりによく、俺はその腕を掴む。
握られていたソレに俺は唖然とした。
「最近の看護師さんはナイフを持ち歩いてるのか?」
彼女は顔色を無くし、へなへなとしゃがみこんだ。
「お、おい…?」
俺は掴んでいた手からナイフを取り上げ、彼女と同じ目線に立つ。
「…いつからだ?」
「え?」
「いつからアタシが殺し屋だと気づいてたんだ?」
彼女の目は悲観的に俺を写していた
「こ、殺し屋…?」
対する俺は事態の把握が全くできていない。
殺し屋、なんて言葉を現実で聞くのは初めてだったからかもしれない。
「え、殺し屋なのか…?」
「お前を殺しに来た殺し屋だとわかったからナイフを止めたんだろう?」
体触られて一般人に殺気がバレるなんてな、と呟く彼女はどう見ても殺し屋なんかに見えなかった。
病院の真っ白な壁と同じぐらいに、もしかしたらそれよりも顔色のない彼女はどう見てもか弱い女の子だったのだから。
「なんで殺し屋なんだ?」
俺は彼女に問いかけた。
殺されそうになったなんて現実味が沸かない。
彼女が殺し屋なんてもっと現実味が沸かない。
「生きていくため。」
そう真っ直ぐに俺を見て答えた彼女はとても綺麗だった。
先程まで淡い光を灯していただけのその目はグリーンだったことに俺は今さら気づいた。
「俺は…君に人を殺させたくなんてない…」
知らず知らずのうちにそう、俺は呟いていた。