Cute Bunny
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「体育館暑いのよ!!!!!!!」
「キレんなって。」
イライラする徠哩を笑っておだてるのはいつも俺の役目だった気がする。
いや、昔は違ったんだけどさ。
「そこまで暑いのが嫌ならマネージャーなど辞めればいいのだよ。」
「あーそう!辞めてやるわよ!!」
「待って、困る。」
部活の休憩中だったのだが、暑いのが昔から苦手な徠哩はサイコーにイライラしている。
真ちゃんこと俺の相棒、緑間真太郎も今日はおは朝占いのラッキーアイテムが手に入らなかったようで最高にイライラしている。
つまりはお互いが火を待つ爆弾的な状態であるワケで、俺はめちゃくちゃハラハラしてる。
バスケの強豪で知られる秀徳だが、実はここ数年深刻なるマネージャー不足に悩まされ、今のところマネージャーが徠哩一人という強豪としてはありえない状態であり、徠哩がイライラして辞めるなんてことになると俺たち選手は部活生命を絶たれるも同義なので、真ちゃんはマジで火に油を注ぐようなことを言わないでほしい。
「だいたい、バスケ部は暑いし臭いし絶対高校では入らないと思ってたのに高尾!アンタのせいなんだからね!!」
「わりーって。許して徠哩。」
そう言って徠哩に投げキッスすると徠哩はげんなりした表情でマネージャー業務を再開した。何それ俺傷つくー…。
「アイツ…調子悪いのか?」
徠哩が立ち去った後に真ちゃんが俺に問いかける。
喧嘩するほど仲がいいっつーか、よく見てるっつーか。
「たしか生理二日目。」
「……真面目に聞いた俺が馬鹿だったようだ。」
なんでお前が知ってるのだよと顔を赤くする真ちゃん。コイツ、ホント初心だよなー。
「そりゃ幼馴染だし?」
「普通の幼馴染はそんなこと知らないだろう。」
「そりゃあ将来結婚する仲だからなー。」
テキトーにごまかしてたら練習再開の時間になった。
あ、これって俺もしかして真ちゃんにストーカーとか思われた状態なんじゃ…?
なんて思ったけど無駄口聞いてる暇はなさそう。
俺が徠哩の生理を把握してる理由はおおよそ単純である。
徠哩がスケジュール帳に自らの月経周期を事細かに記録しており、そのスケジュール帳はまさかの俺のスケジュール帳である。
いや、俺も最初焦った。
「月経周期の把握でしかスケジュール帳を使うことがないからかずくんのスケジュール帳に書いていいよね?お金ないし。」
小学校六年生の俺はこの発言に衝撃を受けた。
そのころの徠哩は今みたいなツンツンした正確にはまだなってなかったのでその後に、
「かずくんとは将来結婚するんだし…。」
なんて顔を赤らめて言ってくれたから俺はもう満足してスケジュール帳を差し出したのだが。
さすがに高校生にもなってこの状態はいかほどかとも思うのだが、なんとなく徠哩との接点を増やしておきたい俺はこの奇妙な状態に甘んじている。
それに利点というかなんというか、体調がすぐれない理由が言わずとも生理ってわかるから鎮痛剤が必要なんだなとかわかって割と便利である。
「ま、こんなの言い訳なんだけど。」
練習の時も俺の広い視野は徠哩を捕らえる。
つまりは俺って徠哩に首ったけなワケだ。
「二人ともお疲れさま。」
「アレ?まだ帰ってなかったの?」
居残り練は俺と真ちゃんの二人が最後だった。
いつもなら徠哩は先に帰ってるはずなんだけど、今日は何故か部室でで退屈そうに待っていた。
「今日は監督が用事で帰られたから鍵の管理はマネージャーの私。練習長すぎ、馬鹿なの?」
「お前に馬鹿と言われる覚えはないのだよ。」
「お願いだから二人とも喧嘩すんなって。」
俺は練習着を脱いで制汗剤を振る。
「高尾、貸して。」
「俺、まだ塗ってないんだけどさー徠哩ちゃーん。」
有無を言わせず制汗剤を奪い取られた。
まぁ、この部室も大概暑いもんなーなんて思ってロッカーの中を探ってたら背中に濡れた冷たい感覚が襲った。
「うひっ!!?」
「なにやってんのよ。」
後ろを向くと呆れ顔の徠哩が制汗剤を握って立っていた。
「え、なに?塗ってくれてんの?何のサービス?」
「いいから早く着替えて。眠い。」
えらく丁寧に徠哩は制汗剤を塗ってくれたようで、着替え終わるころには俺の背中は冷や冷やしすぎてちょっと痛かった。
チャリアカーのじゃんけんの勝率は相変わらず悪く、俺は真ちゃんと徠哩を乗せて走る。
もうここまで負け続けてたらじゃんけんせずに漕いだ方が効率いい気がする。
「初めて乗ったけど思ったより快適。」
「漕いでる方地獄だかんな!」
「負けるのが悪いのだよ。」
「なにその勝つことが正義、みたいな発想?これ、じゃんけんだからな。」
真ちゃんを無事送り届けて、俺と真ちゃんは明日の朝のチャリアカーのじゃんけんをした。
俺が負けた。
「くっそー…。今晩もコイツ、俺がお持ち帰りかよ。」
「負けた方が持ち帰るって法則なら高尾ずっと負け続けてるじゃん。」
毎晩見るわよコレ、と笑う徠哩を乗せたまま俺は家に向かう。
「徠哩ー。」
「何よ高尾。」
「将来さー、結婚したらこんな感じで車乗ろーぜ。」
ばっかじゃないの、と呆れられる覚悟で言った言葉だったが、徠哩の返答は
「考えとく。」
といった簡潔かつわりといい返事だった。
思わず頬が緩む。
家までの道を進む足は軽い。