四十五人四十五話

□二話 綾部喜八郎
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落ち着いて、息を調え、ここぞというタイミングで獲物を放つ。

必ず仕留められると確信したとき以外は無駄に投げてはならない。




もうすでに日は暮れかけ、茜色の光がズタボロになった的を照らしていた。

そろそろ腹も減り、体も砂ぼこりでまみれている。


『はぁ…。』

そろそろ帰るか、と立ち上がり、用具を片付ける。

的はもう使い物にならんだろうから、新しいものに変えないと。

何十個と獲物を投げた的は、様々な傷がついてもう原型をとどめていない。

いつもなら、真ん中辺りに丸く穴が開き、他の場所には傷ひとつつかないのに。

自慢…というわけではないが、それほどに俺の投擲は正確だ。

でも、今日はかなり雑になっている。

まぁ、あんなに投げやりに打てば、そりゃ、こんな風になるだろう。


自主練の様子を山田先生や潮江先輩に見られなくてよかった。

それほどまでに酷い投げようだったからだ。


的を張り替え、道具をしまいおえる頃には夕陽は地平線に沈みかけていた。


『…早くいかないと、夕飯、食いっぱぐれるな。』


食堂に向けて、足早に歩を進めていたとき、
ズボッといういやな音と共に、俺の体は吸い込まれるようにして土の中へ消えた。
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