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□夢のあなた
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さらさら靡く前髪。
一重なのに大きな瞳。
誰かの噂話や写真でしかその人を知りなかったから
そんな綺麗な人がいるなんて。と、どこかおとぎ話のように思ってたのかもしれない。
写真と言っても友達が盗撮したもので、すごく遠い後ろ姿だから、実際のところはよく分からない。
キムテヒョン。年上。
どこかで会えたら。という気持ちと、どんな人なんだろう。という好奇心を抱えて歩いていたのが悪かった。
「あの、ほんとにごめんね」
ワイシャツが張り付いて気持ちが悪い。水だし、冷たい。
眉をこれでもかというほど下げて謝るこの人こそが、まさかキムテヒョンだなんて。周りの声が聞こえなかったら、分からなかったと思う。
…本当に、綺麗なひと。
「や、ほんとに大丈夫ですよ。気にしないで」
「でも、あ、これ使ってっ」
キムテヒョン…、いやテヒョン先輩が、ポケットから出したハンカチを素直に受け取る。ちらりとそちらを見ると、オロオロと俺を見るテヒョン先輩。申し訳なさそうに伏せたまつげが、震えていた。
俺はこの状況にオドオドしてるよ。と言いたかった。
それは、がやがやと賑わう学食での出来事だった。