短編

□短編
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器用?不器用?
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金曜日の放課後。担任の先生に「授業で使った本を返して欲しいねんけど…」と頼まれ、図書館へ。生徒会長だからって頼んでじゃねぇぞ!と内心思いつつ、笑顔で「わかりました!」って言った私は自分で言うのも何だが器用な人間だなぁと思う。周りの人からもよく器用だねーなんて褒められるし、山本彩器用説は間違ってないと思うのだが、この説も場合によっては覆されることもある。

その覆る瞬間っていうのは、自分が自分じゃないみたいで嫌だけど、心地よい感じもするから本当に嫌なわけでもない。ハマっていくという言い方が正しいだろうか。どんどんハマっていて抜け出せなくなっていく。

ーーバタン!!ーー
静かな図書館に突如現れたうるさい音。漫画でしか、あんなに本落とす人見たことないわ。

「はぁあんたか、美優紀。何してんねん。」
「アリストテレスの本探してたら、手が勝手に動いてこうなった。祟りかなぁ。」
「…うん、あの、ツッコミどころ満載やねんけど、一つに絞るわ。なんでアリストテレスの本なんて探してんねん。」
「今日、哲学の授業あったやん?それでアリストテレス、案外良いこと言うやん!って思ってなぁ。」


お前、起きてたんかい。授業開始3分後には机に突っ伏してたやん。と心の中で突っ込みながら、確かにアリストテレス良いこと言ってたかもなぁと思い返す。

「あ、あった!」
そう言って、アリストテレス入門と書かれた本を取る美優紀。ほんま単純やつやな。なんて思いながら隣に座り本を覗くと、美優紀は、最初から読まず第3編の恋愛とアリストテレス編から読み始めている。

なぜこのページなのだろう?と思いつつも美優紀は今、恋に悩んでいるのか?とか恋愛についてどう考えているのだろう?とか色んな考えが頭をよぎる。

「あーアリストテレスさんめっちゃ良いこと言ってるわ。愛することは楽しむことであるが、愛されることは楽しむことではない。って。痺れるわ〜。」

「美優紀、愛されるより愛したい派やもんな。」

「そうやねん。人生は1度きりしかないねんから楽しまなきゃ損やしな。」

美優紀の口癖。「人生は一度きりしかないんやから。」この言葉をいった後に、彼女は必ず自分の目標を付け足して言うんだ。楽しまなきゃアカンとか後悔したくないねん。と。この彼女の口癖はいつも自分の心を揺さぶる。本当に人生が1度きりしかないのなら、私も後悔したくないわ。美優紀に好きって伝えたいわ、と。それと同時に伝えられないもどかしさも私を襲うんだ。なぜ片思いなのだろう、なぜ彼女は愛されるより愛したいのだろうと。

いつの間にか、本を顔に乗せて隣で寝てる美優紀は、私の気持ちなんて知るこっちゃないのだろう。

美優紀は愛したいなんて言うけど、今までそれで散々悲しい目に会ってきたやんか、美優紀の生き方をしたいわけではないけど、いい加減気付けや、と呑気に寝てる姿を見ながら思う。こんなこと美優紀に言ったら拗ねるから絶対言わへんけどせめて、私にしたらいいやん?と言えたらどれだけ良いのだろう。

美優紀の前だけ不器用になる自分。
さっきは嫌いじゃないなんて言ったけど、そんなの嘘や。確かに美優紀と喋るときはいつもの自分じゃないみたいでどこか嫌いじゃないけど、思いを伝えられなかったら、そんなのただの逃げだ。起きた時に好きって伝えようか。でも伝えたら今までの関係が無くなるかもしれへん。そう考えると出来ない。

寝てる時にしか好きと言えない不器用な私をアリストテレスはどう言うのだろう。

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