SAND BEIGE -幼少期-
□SAND BEIGE 2
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その日の夕食は、3週間ぶりに任務から戻ったサハラも一緒で、それは豪華なものだった。
久しぶりに、家族3人の笑顔がはじける。
ナナセは、大いに食べ、大いに笑い、大いにしゃべり、ずっとはしゃいでいた。
そんな時だ。
「ねぇ、おかあさん。があら君のおうちに、あそびにいってもいい?」
「? ・・・我愛羅、君?」
その名前に、両親は箸を止め、顔を見合わせた。
上忍の二人が知らないわけがない。
「ナナセね、があら君と、おともだちになりたいの。でね、があら君のおうちに、あそびにいくの。クマちゃんのおうちなんだよ!!」
そう言って、我愛羅と出逢った日のことを、怒涛のように話し始めるナナセに、サハラが待ったをかけた。
「ナナセ。その、我愛羅・・・君は、どんな子か、知っているのかい?」
「? どんな?」
「・・・お父さんが、どんな人とか。」
「があら君のおとうさんは、さとでいちばんえらい、おうさまなんだって! だからね、があら君は、おうじさまなの! でね、おおきくなったら、おうさまになるの!」
「っ! 我愛羅様が、そう言ったのかい!?」
「ナナセがそういったの! だって、おうじさまのつぎは、おうさまでしょ? おかあさんがよんでくれたごほんも、そうだよ。」
二人はまたしても顔を見合わせた。
「それでね、があら君のなかにね、おばけがいるんだって。きっと、があら君は、おばけがこわいんだよ。ナナセはおばけなんかこわくないからへーき。だからね、があら君にも、へいきだよって、おしえてあげるの。」
があら君、よろこんでくれるかなぁ・・・なんて、のんきにニコニコ笑いながら言う娘に、両親はあっけに取られていた。
だが、仕方ない。
砂隠れの里の民にとって、忍びにとって、四代目風影がどんな存在か。
人柱力が何であるか。
一尾の守鶴がどれほど恐ろしいか。
我愛羅が、どんな運命を背負っているか。
齢6歳の娘に、分かるはずもない。
「・・・でね、おかあさん。」
「え?」
「んもう、ちゃんときいてよ!」
「ごめん、こめん。それで?」
「夜叉丸さんが、おかあさんが、びょういんにおとまりするひに、あそびにおいでっていってくれたの。」
「夜叉丸が?」
「あなた、知ってるの?」
「・・・加琉羅様の弟で、確か・・・。」
(風影様直属の暗部にいるはずだ)
偶然なのだろうか。
それとも・・・。
「いいでしょ、ねぇ、おかあさん!」
普段あまり我儘を言わない娘が、こんなに頼んでいるんだ。
出来ればいいよと言ってやりたい。
だが・・・。
ムツはちらりと横目でサハラを見た。
決めるのは自分じゃない、夫だ。
「・・・ところでナナセ。どうして、お父さんじゃなくて、お母さんなんだい?」
・・・こんな時に、何を言ってるんだろう。
ムツは呆れた顔で、夫を見た。
自分ではなく、母親に許可を求めることに、少なからずジェラシーを感じているらしい。
ナナセにとっては、別に父親でも母親でも同じことなのだが。
ただ、夜叉丸が「お母さんに」と言ったので、「お母さん」じゃないと、家に連れていってもらえないんじゃないかと思ったからだ。
「じゃぁ、おとうさん、いい?」
一瞬、うっ、と怯んだサハラに、またもやムツは、呆れた視線を向けた。
目にいれても痛くないほど溺愛している娘に、そんな可愛くおねだりされて、断れる父親などいるだろうか。
(分かってるくせに、何でそういうこと言うのかしらね、この人は・・・)
「そ、そうだな。今度ナナセが一人で留守番する時までに、夜叉丸に挨拶しとくか。」
「やったー!!」
文字通り、ナナセは飛び上がって喜び、父親に抱きついた。
「おとうさん、だいすき!!」
ナナセの大好き攻撃に叶う男など、いやしない。