SAND BEIGE -幼少期-
□SAND BEIGE 3
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(ここが、があら君の、おうち・・・)
公園で待ち合わせした夜叉丸と我愛羅に手を引かれ、ナナセは、口をあんぐりと開けたまま、目の前に立つ家を見上げた。
砂隠れの里は、他里、とくに木の葉や雷に比べて、規模が小さく人口も少ない。
気候や風土、砂漠の中にあるということもあって、様々な技術開発も遅れがちである。
それは建築様式にも言えることで、砂隠れの里のほとんどの家は、特殊な砂壁だが、我愛羅の住む家は、それは見事な、美しいレンガ造りの家だった。
「さぁ、どうぞ、ナナセちゃん。」
「・・・おじゃまします。」
恐る恐るご挨拶・・・と言った感じで、一歩足を踏み入れる。
壁も、家具も、自分の家とは全く違うものだ。
「こっちだよ、ナナセ、ちゃん。」
「・・・うん。」
つないでいた手を、我愛羅がくいっと引っ張るようにして、リビングにつれていく。
暖炉があって、小さいけれどたくさんの窓があって、決して広くはないが、温かいぬくもりを感じる家だ。
「私は夕食の準備をしますので、我愛羅様は、ナナセちゃんを、お部屋に案内してあげてもらえますか?」
「・・・うん。」
我愛羅は再び、こっちだよと、ナナセの手を引っ張る。
リビングを出てすぐの扉を開けると、そこが我愛羅の部屋だった。
大人がゆうに2人は寝れるような大きなベットの上には、大小さまざまなクマのぬいぐるみが、埋め尽くすように置かれている。
「すごい! クマちゃんだ!」
ナナセは、目をキラキラと輝かせ、駆け寄った。
「があら君、さわってもいい?」
「いいよ。」
わーい! と大喜びしたナナセは、一際大きなクマのぬいぐるみに、タックルするように抱きついた。
我愛羅はその隣に、ちょこんと座る。
クマのぬいぐるみと我愛羅を交互に見つめ、ナナセはニコニコと笑った。
「があら君がいつももってるクマちゃんは?」
「あそこだよ。」
我愛羅が指差した先には、ソファーとテーブルがあり、そこに、いつものクマのぬいぐるみと、もう一回り大きなクマのぬいぐるみが、仲良く並んでいた。
どうやら、外に出しているので、ベッドに置いてはいけないと、夜叉丸に言われているらしい。
ナナセはベッドから降りて、ソファーに近寄る。手前のテーブルの上には、アンティークなランプと、写真立てがあった。
「あれ? 夜叉丸さん?」
「かあさまだよ。」
「があら君のおかあさん? 夜叉丸さんに、にてるね。」
「夜叉丸は、かあさまの、おとうとなんだ。」
「そうなんだ。」
ナナセは、まじまじと写真を見つめた。
「があら君、おかあさん、いないの?」
「・・・ぼくが、うまれたとき、死んじゃった。」
我愛羅の声は寂しげではあったが、泣き出しそうではなかった。
ナナセは少し安心して、今度はクマのぬいぐるみを見た。
もしかして・・・。
「このクマさんが、おかあさん?」
気づいてくれたナナセに、我愛羅は嬉しそうに頷く。
じゃぁ、ご挨拶しなくっちゃ! と、ナナセは背負っていたリュックをおろすと、ごそごそと中をあさり、我愛羅のそれよりも、一まわりも二まわりも小さいクマのぬいぐるみを取り出し、二つ並んだぬいぐるみの前に、膝をついた。
「こんにちは、ナナセです。この子は、ももちゃんです。きょうは、があら君のおうちに、おとまりにきました。」
よろしくおねがいしますと、お行儀よく頭を下げたあと、くるりと振り返って、我愛羅にも、よろしくねと、ももちゃんと一緒にお辞儀をする。
びっくりしながらも我愛羅は、「きてくれて、ありがとう。」と、素直な気持ちを伝えた。そして、その気持ちを形として表すかのように、ナナセのぬいぐるみを自分のぬいぐるみの横に並べた。
「これで、きょうは、いっしょだよ。」
「ありがとう、があら君。」
我愛羅とナナセのクマのぬいぐるみは、いつもの仲の良さを象徴するかのように、手をつないで座っているように見える。
唯一普段と違うところと言えば、我愛羅より少し身体の大きいナナセが、ぬいぐるみだと、我愛羅に少しもたれかかるように寄り添っているところだろうか。
そのことに気づいた我愛羅は、気恥ずかしさを隠すように、こっちだよと、ナナセの袖口をひぱる。
何だろう・・・と、ナナセが振り向いた時にはすでに、我愛羅はベッドに駆け寄り、ぬいぐるみの山にダイブしていた。
大きなクマのぬいぐるみに抱きつき、周りで、小さなクマのぬいぐるみやらカラーボールやらおもちゃやらがはじけ飛ぶ。ベッド自体がまるで、おもちゃ箱のようだ。
ぬいぐるみの合間から顔を出した我愛羅が言った。
「ナナセ、ちゃんも、おいでよ。」
「うん!」
ナナセも、クマのぬいぐるみの山の中にダイブする。
埋もれたナナセがひょっこり顔を出し、二人は、顔を見合わせて笑った。