長編 『 お隣さん。 』

□お隣さん。2
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「あ、お裾分けしたら?ほら、隣に美人さん住んでんでしょ?仲良くなるチャンスじゃん!!大ちゃんここでハートゲット!!笑」

そんなテキトーなことを言いながら片付けを済ませると、山田はさっさと帰ってしまった。

ハートゲットもなにも、男のハートをゲットしてどうすんだよ。

しかも、1度話した(しかも初対面)だけで、あとはすれ違っても挨拶だけの関係の男に突然「生姜焼きあげます」って言われるの、びっくりしない?
俺だったらちょっと怖いもん…

でも、そっか
お裾分け…
それだったら無駄になんないし…
あの人、すれ違うときよくコンビニ袋ぶら下げてるから、ご飯作らないっぽいし…

………んーー、よし!
もう行っちゃおう!!

捨てちゃうのもったいないもんね!!

半分やけくそになりながらも
明日の朝ごはん分だけ残し、
あとの全部をお皿に盛り付けてラップをして準備完了。

今日山田に話した隣の美人さん

いのおさん。

部屋着のまま、お皿を持って外に出る。

いざ部屋の前まで来るとやっぱりドキドキする…

勇気を出してインターホンを押した。

(ピンポーン)

インターホンの上の表札が目にはいる。

そういや…初めて漢字見たな。
伊野尾ってこうやって書くんだね。
難しそう…

『……はい』

そんなこと考えてるうちに中から声が。

「あ、えっと、有岡です」

『……え?有岡くん?………今出ます』

インターホンが切られて、少ししてからガチャっとドアが開き、伊野尾さんが顔を出す。

「どうかしました?」

そう訊ねる伊野尾さんの目線は完全に俺の手の上。

そう、生姜焼き。

うぅ…なんか恥ずかしい。

「あの、これ作りすぎちゃったんで…もらっていただけませんか…?」

「…………」

「…………」

「…………」

沈黙が続く。

ですよね!そうなりますよね!!

「あ、ご、ごめんなさい!いきなり渡されても気持ち悪いですよね!!すみません…!」

伊野尾さんの前に差し出したお皿をシュバッと胸の前に戻す。

謝りながら少し後ろに下がる。

そして伊野尾さんの顔も見ずに逃げるように部屋へ向かった。
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