Novel

□Spider lily / 彼岸花
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なんだ、私はまだ夢の中なのか。

「あ、先生! やっと起きた!」
「今晩わ、ブラック・ジャック先生」

夜8時、夕飯時。
リビングにいつも通り、娘が1人。
でも隣にいつも通りじゃない奴も1人。


昨晩、患者から依頼されていた解離性大動脈瘤(大動脈解離)のオペを***病院で10時間。
***病院で仮眠がとれなかったのでやっと疲労した体を引きずって帰宅。
それから自分のベッドへと体を沈めて意識を手放して、

それから、それから。



「どうちたの、先生?」
「なんでおまえさんがここに居るんだ... 」
「ちょっと立ち寄っただけですよ。そしたらこのお嬢さんが入れっていうから」
「いつも言ってるだろう、ピノコ。不審者を家に入れたら駄目だって」
「はは、いいね。死神の次は不審者か」
「しにがみ?」


そう、いつも通りじゃない奴はこの嫌味なくらい見事な銀髪を持った死神。
そしてブルーグレーの、サンタマリア・アフリカーナの様な冷たい色の瞳。
綺麗だ。いや苦手だ。



「もう一度寝てくる... 」
「あ、先生らめー!!!! せっかく作ったのにご飯冷めちゃう!! 食べたら寝なさい!! あ、しにがみのおっちゃんも食べてって! ピノコ、今日カレー作りすぎちゃったよのさ。あ、でも誰か家で待ってゆ?」
「いいや。おじさんは独り身だからね」
「えぇー寂しそう! 」
「それがそうでもないのさ」


ピノコが楽しそう。そうか、こういう器用な奴わ子供の相手も上手いのか。

容姿端麗、なんでもサラっとこなしてみせるしこんな気難しい子供の相手まで上手く出来るなんて、せめて死神でさえなければ完璧なんじゃないのとか思ってしまう。
まぁそんなこと私に関係ないのだけれど。


キッチンに椅子が足りないのでそのままリビングで。正面のソファーにあいつ、あいつの横にピノコ、テーブルにカレーが3つ。
楽しそうだな。そのまま私が退室してもきずかないくらいにお喋りしていたらいいのに。

「ねぇねぇ、おっちゃんは何してる人なの? 」
「医者だよ」
「じゃあ先生と同じらね!!」
「まぁ... そうだね。ちょっと違うけど」
「ちがうの?」
「医者にも色んな種類があるだろう」

「...CHANEL, CHANCE EAU TENDRE...」
「え? なあに先生?」
「何でもない。ご馳走様。私は部屋に戻る」
「あ、ちょっと先生...!! ごめんね、先生いつもこうなの」
「大丈夫ですよ。慣れているから」
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