小説ブック

□My name is love
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「……誰かの為に、命を懸けるということ」

 木陰でいつもの瞑想をしているとばかり思われていたネジは、足を崩しており、どうやらそれを中断していた。夕刻の涼しい風に吹かれながら、閉じられていない確かな白い瞳が里の景色を眺めている。何を黄昏れているのかと、半分からかいのつもりで側に来たリーへ、不意にネジは放った。或いはリーが来るのを待って、内心でずっと温めていた言葉なのかもしれない。どこか芝居掛かっているような、計算された切り口だった。

「オレには分からない感覚だった。ナルトは、一族の者でもないし」

 特別彼に憎悪を抱いている風には感じないが、感情の籠もらない平坦な物言いだった。彼を庇って重傷を負った従妹のこと。いつかのペイン襲撃の話をネジは語っていた。
 思わず二の句を噤むようなそれにリーはその通りに黙った。隣に佇むリーを見ずに、ネジは仄かに橙の混ざりつつある空を眺めている。この現実主義の班員は何事にも理屈を求めている。だからヒナタの心理が分からずにいた。一つの行動に後付けの理由など必要ないこと。その行動こそが全てで愛の証だということ。ネジが理解するのはまだ先なのだとリーはひっそりと思った。彼にはそんなに一途に心を傾けられる対象が、まだいないから。

「……ボクだって、そうするかもしれません。大切な誰かの為なら、きっと考えるより先に、体が動いてしまう」

 半面、然も自分は心得ている風にリーは答えた。真実に、僅かだがこの悩める天才よりも自分の方が一歩進んでいる。それが切ない片恋ということに変わりはないのだけれど。言った後、リーは冷えた風が沁みるようで僅かに目を細めた。

「そんな人がいるのか?」

 意外に思ったらしい瞳が、リーを振り返って見上げた。それこそ意外だったのだが、けれど微塵も顔に出さずに、リーは師匠譲りのナイスガイポーズとナウいウインクをセットでお見舞いした。

「いますよ! ボクにだって、一人くらい」

 キラリと光って零れる白い歯に、へえ、とネジは薄ら笑いを浮かべる。明らかに信用していない顔付きだがネジが思考の迷路から脱するのなら。この場が少しでも明るくなるのなら。リーはそれで良かった。

「あ……信じていませんね?」
「そんなことない……春野か?」

 半分戯れのようなリーの空気に付き合うことなくネジは真面目な顔を作った。彼の思考回路は単純だった。頼れる医療忍者として日夜奮闘している他班の少女を名指しされて、リーは少し言い方に困った。

「……サクラさんも、大切な人ですが……彼女とは少し、違う人です」

 この場で、それが誰かということもはっきり言えず、リーは意味ありげに視線を彷徨わせた。その瞳が映したくても映せなくなった、密かに恋い慕う人を、ネジは無駄に詮索しなかった。

「リーに想われる人は、きっと幸せだな」

 微笑みも相俟って、それは幾らか残酷だった。何でもないことなのだろう。だが世界中でリーにしか分からない胸の痛みだ。少しは気になって欲しいとも思ったが、きっとそうなったら自分は狂おしく愛を告げてしまうから。これで良いのだろう。
 悲しみをひた隠した微笑み返しに、ネジは微塵も気付いていないようだ。
 だが、これで良いのだろう。

















ボクのこの気持ちの名前、知っていますか?
ずっと君の側にいるんです。
臆病で、今直ぐには君に気付かれないけれど。
これから先も、側にいるつもりです。
遠くから、近くから、君を。


『My name is love』
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