ツバサ・クロニクル

□はじまり
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アカネ「姉様。今、姉様は一部の記憶と一部の力を失っているの」



ツバキ「一部の?」



アカネ「ごめんなさい。全てを取り戻すことは、私にはできなかった。だから、姉様の飛び散ったアゲハ蝶を取り戻して、姉様の中に戻す必要がある。そのためには、異世界を渡る旅に出るしかないの」



ツバキ「アカネは・・・一緒なの?」



アカネ「私は・・・・・・ごめんなさい。一緒には行けないの」



ツバキ「え・・・?」



アカネ「でも、きっとまた逢えるから。それに私は私で、やるべきことがある。未来(これから)のために」



ツバキ「これ、から・・・?」



アカネ「今はまだ、わからなくてもいいから。それでもいいから・・・」



ツバキ「・・・?」



まだ少し眠そうなツバキは、不思議そうにアカネを見上げる



悲しそうに微笑んだアカネが顔を上げ、侑子の方を見る



彼女はまだ少年に話をしている最中だった



四月一日「って、増えてるしー!」



侑子「来たわね」



眼鏡をかけた少年が、バタバタと走りながら店から出てきた



彼は白と黒のぬいぐるみのような2匹を両手に抱えている



白い方を、侑子が受け取る



侑子「この子の名前は、モコナ=モドキ。モコナがあなた達を、異世界へ連れて行くわ」



四月一日の腕の中で、黒い方がしゅたっと片手を上げる



黒鋼「おい、もう1匹いるじゃねぇか。そっち寄越せよ。俺ぁそっちで行く」



侑子「そっちは通信専用。できることは、こっちのモコナと通信できるだけ」



黒鋼「ちっ」



侑子「モコナはあなた達を異世界に連れて行くけれど、そこがどんな世界なのかまではコントロールできないわ。だから、いつあなた達の願いが叶うのかは運次第」



抱き締めていた白いモコナを、右手の掌に乗せる



侑子「けれど、世の中に偶然はない。あるのは必然だけ。あなた達が出会ったのも、また、必然。小狼、あなたの対価は・・・・・・関係性。あなたにとって一番大切なものは、その子との関係。だからそれをもらうわ」



小狼「それって、どういう・・・?」



侑子「もし、その子の記憶が全て戻っても、あなたとその子は、もう同じ関係には戻れない。その子はあなたにとって、何?」



小狼「幼馴染みで・・・今いる国のお姫様で・・・俺の・・・・・・俺の大切な人です」



侑子「・・・・・・そう。けれど、モコナを受け取るならその関係は無くなるわ。その子の記憶を全て取り戻せたとしても、その子の中にあなたに関する過去の記憶だけは、決して戻らない。それがあなたの対価。それでも?」



小狼「・・・・・・行きます。さくらは絶対、死なせない!」



侑子「・・・・・・異世界を旅するということは、想像以上に辛いことよ。様々な世界があるわ。例えば、そこの4人がいた世界。服装を見ただけでもわかるでしょう。どちらもあなたがいた世界とは違う」



まるで忠告するような、脅すような・・・そんな様子で侑子は語る



侑子「知っている人、前の世界で会った人が、別の世界では全く違った人生を送っている。同じ姿をした人に、色んな世界で何度も会う場合もあるわ。前に優しくしてくれたからといって、今度も味方とは限らない。
言葉や常識が全く通じない世界もある。科学力や生活水準、法律も世界ごとに違う。中には犯罪者だらけの世界や、嘘ばかりの世界や、戦の真っ最中という世界もある。その中で生きて、旅を続けるのよ。どこにあるのか、いつ全て集まるのかわからない、記憶のカケラを探す旅を。
でも、決心は揺るがない・・・・・・のね」



小狼「・・・はい」



侑子「覚悟と誠意。何かをやり遂げるために必要なものが、あなたにはちゃんと備わっているようね」



モコナが乗っている右手を、小狼達に向かって伸ばす



侑子「アカネ。話は済んだかしら?」



アカネ「・・・・・・ええ」



ツバキを抱えて立ち上がると、白い印象の男、ファイ・D・フローライトの方に歩み寄る



ファイ「?」



アカネ「姉を・・・・・・よろしくお願いします」



真っ直ぐ自分を見つめて言ったアカネを、ファイは拒絶できなかった



そっとツバキの体を受け取り、抱える



ツバキ「アカネ・・・!」



侑子「では」



フワ



パキィィィン



侑子「行きなさい」



パアアァァァ



ガバァッ



ぱくんっ



シュルン



背中に翼を生やしたモコナが大きく口を開けると、そこに吸い込まれるようにして、5人はこの場から姿を消した



彼らが立ち去ると、雨が上がり、雲が晴れていった



侑子「・・・・・・どうか、彼らの旅路に幸多からんことを」



晴れ渡った空を見上げ、侑子は微笑んだまま言った



侑子「・・・・・・さて、あなたはこれからどうするの?アカネ」



アカネ「一度アメリス国に戻るわ。時が来るまで、私は私ですべきことをやる。姉様は忘れてしまったけど、『その時』のために、私達はそれぞれ、あなたに対価を支払ったのだから」



侑子「・・・・・・そうだったわね。“その時”がくるのをアメリス国で待つのもまた、あなたの役目」



アカネ「・・・・・・わかっているわ」



そう言って、アカネは空を見上げると微笑む



アカネ「またね、姉様・・・・・・いいえ、ツバキ」
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