xxxHOLiC
□猿の手
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がらっ
四月一日「あ、蓮沼さん!」
椿「おはよー・・・」
四月一日「・・・眠そうだね?」
椿「ん・・・・・・で、なんの騒ぎ?」
四月一日「それが・・・」
椿「?」
百目鬼「俺も聞いた。栓も抜いてねぇのに綺麗になくなってたらしいな、プールの水」
四月一日「あぁ?栓抜かずにどうやって抜くんだよ。うちのプール、バカでかいのに」
百目鬼「知らねぇ」
ひまわり「でも、本当に雨降ったね。昨日」
四月一日「うん・・・」
百目鬼「けど、「願いが叶いました。めでたしめでたし」で終わる代物じゃなさそうだけどな。あの『猿の手』は」
四月一日「わかるのか」
百目鬼「いや。お前、あの教育実習生に使わせないように色々言ってたろ。だったら良くねぇモンなんだろ。アレは」
椿「百目鬼君の言う通りよ。ハッピーエンドで終わるようなものじゃないわ、アレは」
四月一日「え?」
昼食を黙々と取っていた椿が口を開き、コンビニで買ったのであろうサンドイッチを持つ手を膝まで下ろす
椿「昨日も電話で話した通り。このままハッピーエンドで終わるのなら、等価交換の原則に反する」
ひまわり「等価交換?」
椿「あぁ、そっか。君尋君にしか話してなかったっけ。世の中全てが、何も必要とせずに成されているわけではない。実際にはきちんとした法則があるの。無から有は生まれないから。何かを得ようとするのなら、それと同等の代価が必要となる」
百目鬼「それが等価交換の原則、ってやつか」
椿「ええ。でも今のところ、あの教育実習生さんは何も支払っていない。ただ『猿の手』に願いを叶えてもらっているだけ。一般的な伝承や言い伝えで聞く『猿の手』は、願いをかけたものを不幸にして終わるらしいけど、それはある意味、願いを5つ分叶えた代価と言える」
四月一日「え?願いの数って、決まってるの?」
椿「手だけあって、あの片手の指の数だけよ。願い5つ分の代価・・・思っている以上に重く、大きい代価が必要となるでしょうね」
言い終わってすぐ、彼女は昼食を再開した
玉子サンドを完食すると次のサンドイッチのビニールを開ける
四月一日〈そういえば蓮沼さんーーいつもコンビニの袋持ってるよなぁ。転校してきてまだ数日だけど、見掛けるといっつもコンビニの袋からサンドイッチを・・・しかも、種類は絶対あれなんだよなぁ。玉子サンドだけ〉
ふと、椿の手元を見た四月一日は考え込んでしまった
相変わらず物静かな声色で、クールに見える蓮沼椿
だからなのか、彼女が自分達以外の誰かと親しげにしているところを、学校では全く見ていない
そして昼食はいつも独りで、コンビニのサンドイッチを2袋
最近では自分達と食べ始めているが、彼女から声を掛けてきたのはあの一度きり
それ以前は四月一日が誘っていたのだ
視線に気付いていないのか、それともあえて無視しているのか、椿を見つめ続けている四月一日に目を向けることはなかった
百目鬼「明日はうまき卵入れろ」
四月一日「【💢】だから偉そうに言うな!」
クスッーー
四月一日「え?」
百目鬼「?」
小さく聞こえた、可愛らしいその笑い声
そちらに目を向けると、先程までは無表情だった椿が微笑んでいた
穏やかで、綺麗で、見た目としては年相応の可愛らしい微笑み
そう、彼女の見た目は四月一日達と同じ年頃なのだ
侑子から更に詳しく聞いた話では、彼女はすでに自分達よりも長く生きていて、もう何百年にもなるらしい
だが、そんな事は今の彼女からは全く感じられない
同い年の、少し大人びた転校生ーー
少なくともこの時、四月一日にはそう感じられたのだ
ひまわり「あ、椿ちゃんが笑った!あたし、初めて見た!」
椿「えーーあ、ごめんなさい」
ひまわり「謝ることなんてないじゃない。すっごく綺麗で、可愛かったわ!もっと笑ったらいいのに。ね、四月一日君。百目鬼君」
椿「いや、あの・・・」
四月一日「うん。おれもひまわりちゃんと同意見だな」
椿「え?」
四月一日「もっと笑ったらいいと思う。折角、綺麗で可愛いのに、勿体ないよ。おれはいつも無表情な蓮沼さんより、笑ってる蓮沼さんの方がいいな」
椿「///っ」
百目鬼「笑う門には福来る、って言うしな」
四月一日「いや、ここでそれ言うのもおかしいだろ!?」
椿「【きょとん】・・・・・・ふふっ。そうね、そうする」
四月一日「【ほっ】・・・」