甘くて短い

□笑顔が似合うから
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「卒業したくない」だなんて言ったら、君はなんて言うだろうか。


卒業式が行われている中、1人私はポツリと考えた。
「意味が分からないよ」
って言うのかな。
もしかしたら、
「卒業しないと困るでしょ」
って言うのかもしれない。でも、そのどちらでもない可能性だってある。


藍と学校で会えなくなるのがこんなにも悲しいだなんて、知りたくなかった。こんなにも心に穴がぽっかりと空くだなんて、知らずにいたかった。
こんなに想っていたことも、出来れば知りたくなかったなぁ。

藍が私にとって、どれほど大きな存在で、大切なのかを十分に知らされてる気がしてならない。
こんなに想っていても、藍がどう思ってるかなんて分からないくせに。
それでも、溢れる気持ちに抑制するのは難しくて、いつもの調子で、藍に声をかけていた。

「藍ー」
「何?って、なんだキミか」

いつもの調子で声をかけたはずなのに、藍の声を聞いただけで泣きそうになった。
ばかやろう、こんなとこで泣いても仕方ないじゃない。なんで卒業式では泣かなかったのに、藍の声を聞いた瞬間泣きそうになるのかなぁ。勘弁してよ。藍を困らせるだけだよ。

「卒業式、どうだった?藍、泣いた?やっぱり泣かなかった?」
「………」

何で。なんで。
そんなに目を見開いて、私を見つめるの?驚いた顔をしないでよ。藍にとって、私なんて存在はクラスメイトと同等なんじゃないの?なんで、そんなに驚いてるの。いつものように「泣いてないに決まってるでしょ」って言ってよ。お願いだから。勘違いさせないで。

「……キミ、なんでそんなに泣きそうなの」
「泣きそう?嫌だなぁ。冗談はよしてよ___」
「ずっと目尻に涙をためてる。もしかして、我慢してる?」

だから、なんで。
こんな時ばっかり、私の心を言い当たるようなことを言うの?

「な、いてな…いっ」
「ウソ。もう泣いてるよ」
「泣いてないって言ったら、泣いてないよっ…!」


学校を卒業しただけで、2度と会えなくなるわけじゃない。
会おうと思ったら、いつだって会うことは可能なのに。もう2度と会えない。そんな気がして、涙がとまらなかった。

「藍と会えなくなるのがっ…嫌だっ……」
「会えなくなるわけじゃないでしょ」
「でもっでもっ!」

必死に言葉を紡ぐ私の体が、急に何かに包まれた。
その正体は分かっているのに、普段の彼からは想像出来ないような行動だから、何が起こったのか把握するのに、大分時間を要した。

「あ、い…?」
「……キミが泣いてるのを見ると、何故だか心というものが傷む気がするんだ。あるはずないのに」

おかしいね、ともらす彼の声に、また泣いてしまった。
あまりにも優しすぎる抱擁に、また涙がとまらない。

「はぁ…逆効果、だったのかな。離れるよ?」
「やだ。離れたらもっと泣く」
「……はぁ…まったくキミは…こんなことするの、キミだけだから」

ほんと、わがまま。

そう言ってるのに、いうことを聞いてくれてるあたり、やっぱり藍は優しすぎる。

藍と、会えなくなるって思ってた。
学校のクラスメイト、っていう口実がなくなったから、もう2度と会えないものだと思っていた。

でも、実際は違った。こんなにも優しく抱きしめてくれる人が、口実がないと会ってくれないだなんて思えない。思わない。

得体の知れない不安に、怯える必要がなくなった。
だったら、まだこの気持ちも伝える必要はないかな。



好きという気持ちは、もう少しとっておこう。
 

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