SAYAMILKY

□台詞
1ページ/1ページ




美優紀(こびー)side





今日は、私の最後の演技の日。








これまで激尾古のNo.2、こびーを演じてきた。



今日私は、殺される。
アントニオへの強すぎる思いのせいで。





『………そしたら…………


アントニオはずっと私だけの…………』





この台詞に……今までのこびーのアントニオへの思いが全部詰まってんねんな。

しっかり気持ち込めて言わなあかん。

大丈夫や!
……昨日も家でちゃんと練習してきたし!





そう意気込んでスタジオに入った。






次のカットは、私が病院で陣山の上に乗る状態から始まる。




はぁ…いよいよ最後や。
私はもうすっかりこびーの役に入りきっていた。

ふと向こうを見ると、カメラの向こうにスタッフさんたちと一緒にこっちを見てる人がいた。



それはアントニオ役の彩ちゃんやった。



ちょっと彩ちゃんっ…私今から…アントニオへの思いをぶつけて殺されるねんで…?
彩ちゃん目の前におったら恥ずかしいやん…


私は少し戸惑ったが、もうすぐ撮影開始やし、落ち着いている暇もなかった。

彩ちゃんは役に入っているのか、何も喋らずアントニオの鋭い眼差しでじっと私の演技が始まるのを待っている。



あかん……
さっきまで平常心やったのに……
…急に心臓ドキドキしてきた…
絶対彩ちゃんのせいやんか…
そんなに見やんといて………



「では、撮影始めまーす!!!」



はぁ…ついにこの時や。
私の心臓の鼓動は未だにおさまらへん。それどころかむしろどんどん速くなってる。

ふぅ……と息を吐く。
やってみせるで。
彩ちゃんにすごいって言わせたる。




「よーい!………はい!!」



その声と共に、私は一瞬で空気を作った。








『そもそも…………あんたんとこがアントニオを拉致らなければ………』




よくも私のアントニオを拉致ってくれたな
このおっさん


私は完全に役に入りきっていた。
台詞を言いながら本気で目の前のおっさんに怒りを覚える。



『そしたら………
……ソルトに惚れることもなかったんや』



惚れたんやな……

私がそう言った後のアントニオの顔が頭に浮かぶ。
アントニオが他のやつに惚れるやなんて…
考えられへん。
そんなこと私が許すわけない。
もう二度とアントニオのあんな顔見たない。

……私を見てる顔だけでいいねん。






『…………………………………
…………………………そしたら………………』







私はこびーとアントニオの関係に、いつのまにか自分と彩ちゃんの関係を重ねていた。



今まで私は、彩ちゃんにずっと私のことを認めてほしいと思って頑張ってきた。



でも気がついたら





彩ちゃんの隣は私だけ





そんな気持ちが芽生えていた

彩ちゃん…

前までは2人で一緒に写真撮ろうとか、ごはん行こうとか言ってくれたのに…
そんなんももうなくなった。

今の私達の関係って何なん?
仕事でしか会わへんし、会っても最低限の仕事の話しかせーへん。
アントニオとこびーの役だって………「仕事」としか考えてへんのかな…?






それでも、
大事な時は必ず私の隣にいる彩ちゃん。
私のことをちゃんと見てくれてて、いつのまにかそばにいてくれる。
私の涙を拭ってくれて、欲しい言葉をくれて、私の心の支えになってくれてる。



今まで私が彩ちゃんの隣で一緒にやってきたのは……仕事やからとちゃうよ?
…大人がやれって言ってるからでもないで?




彩ちゃんのことが……本気で好きやからやで?




彩ちゃんの隣にいていいのは私だけや…
彩ちゃんの喜ぶ顔も、悔しい顔も、優しい笑顔も、全部私だけが見ていれんねん。
他の人には渡さへん…



彩ちゃん……
もっと私だけを見て………?







『………………彩ちゃんは ずっと私だけの……っ……』







気がついたら私はそう言っていた。



えっ……?
自分でもびっくりした。

……私の頬には涙がこぼれていた。







スタジオがしーんと静まり返る。



「………はい、カット……!!」



私はハッと我に返り、自分がとんでもないことをしてしまったと気付く。

台詞を間違えたのはもちろんやねんけど…



私の彩ちゃんへの気持ち………
まさかこんなところで表に出してしまうやなんて…………



私はあまりの恥ずかしさに混乱する。
あかん…もうわけがわからへん…。




そして
私のことを向こうから見ていた彩ちゃん……





当然聞かれちゃったよな……?
私が彩ちゃんにこんな想いを抱いてるやなんて、彩ちゃん知らへんに決まってる……

彩ちゃん今どんな顔してんねやろ………






あかん、彩ちゃんに顔合わせられへん……



「……ごめんなさい。」

私はスタッフさんに謝って一旦スタジオを出た。無意識に流した涙を拭いて、休憩室に向かう。

…あんな失敗二度とせえへんようにしやな。
一回落ち着こ。
彩ちゃんには後でゆっくり説明し…


「美優紀っ!」


振り返るとそこには彩ちゃんがいた。





「っ………彩ちゃんっ……」






私は彩ちゃんの姿を見ただけでまた目に涙が浮かんだ。


「…彩ちゃん…ちょっとぼーっとしてて…アントニオんとこ…なんでか彩ちゃんって言ってしもた…ふふっ…なにやってんねやろ私……っ」



私は必死に涙をこらえて笑ってみせた。



すると彩ちゃんは私を抱きしめた。



……全部分かってんねん、と言うように。



私はポロッとこらえていた涙をこぼした。



「美優紀……っ…あの台詞………
偶然間違えたんとちゃうやろ………?」




彩ちゃんは私の涙の意味を理解していた。






「……私は……ずっと彩ちゃんのこと………本気で好きやねん……っ……」





ここまできたらもう誤魔化されへんと思った私は、彩ちゃんに直接想いを伝えた。
自然と彩ちゃんの背中に腕を回す力が強くなる。




「もっと……私のことだけ見てや……っ
彩ちゃんのそばにずっといたいねん……」





すると彩ちゃんは私のおでこに自分のおでこをくっつけた。
私は仕事以外で彩ちゃんとこんなに近くにいるのは初めてやったから、恥ずかしくて下を向く。




「美優紀、ちゃんとこっち向いて。」




彩ちゃんがかすれた声で言う。

私は勇気を出して彩ちゃんの目を見た。

アントニオの格好をした彩ちゃん
さっきまでタイマンのシーン撮ってたんかな
顔には血とかあざがついてる

でも……ほんまに…綺麗な顔やな…
目の前の彩ちゃんの目に吸い込まれそうになる。



彩ちゃんは今から私に何を言おうとしてるん?







「美優紀…… 私な…
美優紀がほんまに辛い時とか、大事な発表の時は、絶対美優紀のそばにいるって…決めててん。
なんでか体が勝手に動いてしまうねん。

今日も…美優紀の最後の演技ってゆう大事な日やったから……気が付いたら美優紀のとこ来てて…

こびーの、アントニオへの思い、しっかり見て受け止めなあかんなって思ってた。」



…彩ちゃん…そんなこと思ってたん……?

なんやそれ……優しすぎやろ……
ますます好きになっちゃうやん……



私は彩ちゃんの言葉を聞きながら、黙って頷く。
彩ちゃんはさらに言葉を続ける。



「美優紀の台詞聞きながらな……

美優紀、この後殺されるねんな…
美優紀がほんまに死んじゃったらどうしよ…とか考えてしもて…」


そんなことを言う彩ちゃんが愛しくてたまらない。
彩ちゃん、美優紀やなくて、こびーやからな…?
ほんまに死ぬわけないやん……っ
そんな心配しやんで大丈夫やで…?




「そんなこと考えてたらな…
大事な時だけやなくて、美優紀のこともっとそばで支えたいなって…もっと美優紀の笑顔を隣で見てたいなって……そう思ってん。

そしたら美優紀が……あんなこと言うから…。」








「…彩ちゃん…おんなじ気持ちやったってこと…っ…?」


私はそう聞いた。
心臓が飛び出そうなくらいドキドキしていた。
彩ちゃんにも私の心臓の音聞こえてんねやろな……
はやく……返事聞かせて………




彩ちゃんは、潤んだ目で


うん


と小さく頷いた。





私は涙で視界がぼやけて、彩ちゃんの顔をまともに見られへんかった。

彩ちゃんは私におでこをくっつけたまま


美優紀のことが好き


そう言った。


そして、


「私が見守ってるから…最後の演技、ちゃんとやりきってな……?
私がちゃんと受け止めるから。」

と言ってくれた。

「アントニオも、こびーのこと大切に思ってる。他に変えられへん特別な存在や。」


ありがとう彩ちゃん……

私ちゃんとやりきるから…見ててな?


「彩ちゃんにはちゃんと想いを伝えられたから……次はアントニオにもちゃんと伝えてくるな。」


と笑顔で彩ちゃんに言った。

彩ちゃんは私の頭を撫でてニコっと笑った。










演技がおわってこびーを卒業したら、

彩ちゃんのその笑顔を守るために
私もっと頑張るから。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ