SAYAMILKY

□掴めない星2
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美優紀side










彼女の心の底は、暗く、切ないものだった









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ガチャッ

力なく開いたドア



時計を見ると、
深夜の2時を過ぎた頃だった。

私はどんなにさやかちゃんの帰りが遅くても
絶対起きて待つことにしてる

でも……こんなに遅いことあったかな……




ドアは開いたのに、
さやかちゃんの声が聞こえない
聞こえたのはドアが閉まる音だけだった。

嫌な予感がしてドアに走ると、
さやかちゃんが倒れていた。



「さやかちゃん!?どしたん!?」



強いお酒の匂いがした。
メンバーと飲んできたんかな?
さやかちゃんの顔は真っ赤で、
立てない程に酔い潰れていた


「あー……ん?………みるきーがおる〜」


酔った声で、さやかちゃんが言った。
また、『みるきー』って………


「さやかちゃん、違うで。『美優紀』や」


「あ!アハハッ!そうやったなあ〜」



玄関に座り込んでいたさやかちゃんが
不意に立ち上がろうとした。

当然まだ酔いが覚めてないから、
立ち上がった途端にフラついて
咄嗟に私はさやかちゃんの体を支えた。


「ちょっと…!危ないやんか!」


「あ〜、みるきー…顔近いねんけどー……」


今日のさやかちゃんの目は違った。
トロンとして潤んでて、どこか虚ろな目

でも見惚れてた。気が付いたら。



「美優紀」



ドキっとした。
さっきまで『みるきー』やったのに

美優紀って呼んでって何度もさやかちゃんに
言ってるのに、呼ばれるといちいち心臓が
高鳴ってしまう

ひょっとして……使い分けてるん?
『みるきー』と『美優紀』を。

そう思うくらい、
さやかちゃんのことをずるいと思った



さやかちゃんは私と違って、
何か話す事があるから名前を呼ぶ。



「………なに?」









「………………好き…………」






「………っ」



こういう時に咄嗟に返せる言葉って…ある?
………ないよな

頭が真っ白になっていた
自分の心臓の音がいやに大きく聞こえた



「なあ…………好きやねんけど………」



壁に追いやられてた。
介抱しようとしてたことも忘れてた
さやかちゃんの言葉には、
それくらい力がある。

酔ってるから、嘘かもしれないのに。


「な、なあ……さやかちゃん……
お水と薬持ってくるから…………」


「美優紀」


2回目。

もう逃げられないって悟った


さやかちゃんの顔……
色っぽいなあ……直視できひん……


欲しいなあ………



「今、キスして欲しかったら

目……閉じて」



卑怯な人や

思いもしなかった
さやかちゃんにこんな顔があるなんて

今までよく気付かんかったなって



目を閉じることも忘れてた



「なあ………したくないん………?」



額がくっつく。

くっつくだけじゃ、足りひん
なんで重ならへんのやろ
なんて意味わからんことを考えていた




目を閉じた瞬間に、唇が重なった。


卒業してからのさやかちゃんとの毎日は
初めての体験ばっかりで
知らなかったさやかちゃんをたくさん発見してる


今日もまた新しい発見があった


酔ってる時のさやかちゃんは

積極的で
キスが上手いこと
急に『美優紀』って呼ぶこと

私のことが好きなこと





「ぷはぁ……っ………長すぎ………っ」


ほんまにもう……
もうちょっとで息できんくなってたわ……

唇が離れてから、さやかちゃんの顔は
ますます色っぽさを増した

私の目を見つめたまま
頬を撫でていたさやかちゃんが、口を開いた。




「……………好きになっていいの………?」




かすれた声

その目には、やっぱり切なさがあった。
いつもみたいな、切なさ




「このままやったら……好きになっちゃうで………?」



「……………」



同じ気持ちやってんな
私もそう思ってるよ、さやかちゃん

『ここにいていいの?』
って何度も聞いたのは、
『好きになっていいの?』
って意味やったから

さやかちゃんは何度も
『いいよ』って言ってくれた



私はとっくに、好きになってしまってる




さやかちゃんにもう一度キスをした

これが答えやで……?さやかちゃん………


触れるだけじゃ足りなくて、
舌を絡めた。


「はぁっ………さやかちゃん………」



この、自分の声とか、吐息とか

自分が自分じゃなくなってる感じがして
本当は聞きたくない

こんなん私じゃないって、
どうしても思ってしまう


でも、
さやかちゃんに「好き」と言われた今
いつもみたいな心の余裕はなかった


さやかちゃんも余裕ないんかな
既に息が切れそうになってる

もっとさやかちゃんの全部を知りたい。
「私だけ」をもっと増やしたい。



「ん……っ………はぁ………」




自分がこわい。
こんな、出し方も知らなかった声出して……
『みるきー』やったら考えられんかったこと。


でも、次第に自分の声にも酔いしれるくらい
キスに夢中になってしまっていた


さやかちゃん、私は『美優紀』やから

その一心でずっとキスをした。
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