冒険の書

□竜は昇る

奈多巫女[ナタノミコ]になって三年か……。

"チカラ"目醒めぬまま、我が身はこのまま朽ちようとしている。

人並みの幸せも送れぬまま。

誰か為にも立てず、死を迎えるのか。我は一



月光は煌めき、丘の上に立つ一人の少女の姿を照らした。

少女は只静かに、夜闇を見つめていた。

星一つない夜の、紺にも藍にも似つかわしくない夜空を。

「辰浪三子[タツナミサンシ]様、門限の御時間にございます」

「判っている」

目を眇めて、瞬きもせず、今日の残り数秒を暗き空に捧げた。


私の名は決して"三子"ではない。

"三番目の子"という呼び名だ。

尤も、子と呼ばれるだけ有り難いのだが……。

「皆莉[カイリ]、大事無いですか?」

「お母様……」

私の名を呼んでくれるのは、唯一 母だけだ。

「また外へ行ったのでしょう? 危険だから、出来るだけ止めて欲しいのだけど……」

「はい。判っています。……ではお休みなさいませ、お母様」

「お休み、皆莉」


まさかそれが、最後に聞いた母の声になろうとは−

この時は全く思ってもみなかった。
 
 
 
 
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