第一回放送まで

□プロローグ
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目が覚めるとそこは見知らぬ場所だった。
自分の他にも大勢の者が集まっていた。
中には見知った者の顔もあった。
辺りを見回してみると、その場所は何処かのパーティー会場のような所だった。
自分達はステージの上に立っており、客席を見下ろす形になっていた。
客席は空席で、大型のカメラのような物が大量に設置されている。
「やあネッサ、ようやく目覚めたか。」
突如として何者かの声が耳に届いた。
その声には聞き覚えがあった。
「アールか・・・これは一体どういうことだ?」
ネッサが問いかけるが、アールも分からないといった表情だ。
本当に表情でよく分かるな、この男は。
「さあな、俺も気が付いたらこの場所にいたのさ。どうやら他の奴等も同じらしい。」
もう一度辺りを見回してみる。
かつての仲間や敵同士だった者など見知った者から見知らぬ者まで多種多様で、その数はとても数え切れるものではなかった。
「50人・・・いや、もっといるな。とにかく凄い数だ。これだけの者達を集めるとなると・・・犯人は相当な力を持っているな。」
犯人・・・その言葉の意味するもの。
それは、これが何らかの事件であること。
そして、それを引き起こした何者かが存在すること。
一体誰が、何の目的で・・・?
考えていると突然、部屋が暗くなる。
辺りが騒然とする。
「レディース、アンド・・・ジョントルメン。本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます。」
会場に何者かの声が響く。
その声に聞き覚えは無い。
その瞬間、謎の男がその場へと姿を現す。
まるで空気のようきふわっと、音も無く。
タキシードに身を包んだ紳士風の青年だった。
「早速ですが、パーティーを始めようと思います。血に塗れた狂気のパーティーを・・・。」
辺りに沈黙が流れる。
重苦しい空気が場を支配していた。
「ああ、そんなに畏まらなくても結構ですよ・・・。それではルールを説明しましょう。」
その場の者の混乱などお構い無しに淡々と説明していく。
「まず、皆様には・・・殺し合いをしてもらいます。」
その言葉を聞いた瞬間、辺りが騒然とする。
困惑の渦がより一層激しくなる。
困惑しているのはネッサも同じだった。
だが、隣で聞いているアールは冷静だった。
まるで予想でもしていたかのように。
「殺し合いって・・・どういうこと?」
悪魔のような少年が問いかける。
その問いを聞いた途端、青年は愛想よく微笑みかけ、こう言った。
「やあ、君はジャック君だね?君のことはよく知ってるよ・・・夢でいつも見てるからね。で、質問の答えだけど・・・それは言葉のままの意味だよ。」
今までの淡々とした話し方とは一転して、砕けた口調だった。
その豹変ぶりに少年は怯えの表情を固くする。
自分のことを知っている、というのも怯えの要因となっていた。
少年がそれ以上口を開くことはなかった。
「それでは説明に戻ります、皆様の首をご覧ください。」
青年の言う首・・・。
先程から違和感があったと思い、首元に触れてみると。
首輪のような物が取り付けられていた。
辺りを見ると、全員が同じ首輪を付けているようだった。
「その首輪は参加者の位置情報を把握し、主催者がいつでも爆破することができます。また、無理矢理外そうとしても爆破されるようになっています。」
つまり、主催者に逆らったり逃げようとすることはできない。
それをした途端、首輪を爆破され殺されることになるのだ。
だが、そのようなことをいきなり言われても俄かには信じることができなかった。
「皆様、信じられないという表情をしていますね・・・まあ無理もないでしょう。」
そう青年が言った後、彼が次に口にする言葉にその場の誰もが絶句することになる。
「・・・なら、試してみますか?」
脅し文句のような口調で青年がそのようなことを口にする。
辺りが静まり返る。
しばらく青年が無言になる。
まるで答えを待ってでもいるように。
そこで誰も何も言わなければそのままことが済む話だった。
だが、それを口にしてしまった者がいた。
「いきなり殺し合いなんて、意味が分からないわ。それにこの首輪だってどうせハッタリなんでしょう?」
と、紫色の髪の人形のような少女。
「そ、そう!アイリスの言う通りだよ!何を言ってるのか意味が分からないし!」
それに便乗するかのように魔法使い風の茶髪の少女。
その言葉を待っていたかのように青年は口元を吊り上げニヤリと笑みを浮かべる。
「そうだね、アイリスちゃんにリーテちゃん・・・いきなりこんなこと言われても分からないよね。」
先程から青年は何故こちらの名前が分かるのだろうか。
青年は懐からスイッチのような物を取り出すと、こう言った。
「それじゃあ今から実演してみようか・・・実際に首輪を爆破してみよう、さてどうなるかな?」
アイリスと呼ばれた少女は表情を崩さずに。
リーテと呼ばれた少女は明らかに怯えていた。
背丈の小さい黒いワンピースの少女がリーテを守るように背中を抱き締め。
その様子を黒猫が心配そうな目で見ていた。
アールも、何処か心配そうな目で彼女達を見ていた。
「今から君達の中の誰かが、首輪を爆破されて死ぬからね・・・よく見ているんだよ?」
アールが焦りの表情を露わにする。
あの冷静なアールがこのような表情を見せるなど、尋常なことではないのは確かだ。
「ハッタリな訳がない・・・このままでは本当に、誰かが死ぬぞ!」
青年がスイッチを押そうとしたその瞬間、青年の手からスイッチが消えた。
「悪いね、かつては盗賊をやってたもんで・・・これくらい朝飯前よ。」
ねずみの耳に眼帯を付けた侍風の男がスイッチを奪っていた。
だが、青年は表情を崩さずにこう言った。
「ねずみ侍君、残念だったね・・・そのスイッチは僕の手から離れると自動的に作動するようになってるんだ。」
その言葉に唖然とする暇も与えず、ボンッ!という音が響く。
音の方を向くと、そこには・・・。
見覚えのある男が、倒れていた。
首から上が消し飛び、顔は確認できないが確かに知っている者だった。
その無残な遺体に目を見開く。
目を背けることすらできずに呆然と眺めていた。
「お兄ちゃん!!お兄ちゃんっ・・・!!」
金色の髪の幼い少女が必死の形相で駆け寄る。
殺されたのはル・ランジェ。
音の世界の屋敷で暮らす、8歳の妹がいる剣士だ。
その妹、ル・フィーネが・・・涙を浮かべながら彼の遺体へと近付く。
そして遺体の傍で座り込み、彼の体を必死に揺さぶりながら声を掛ける。
「ねえ!嘘だよね!?お兄ちゃんは死なないよね!?ねえ起きて!お願いだから起きてよ!!」
その悲鳴にも近い声に、周囲の者は絶句する他なかった。
アイリスと呼ばれた少女は無表情ながら何処か責任を感じた様子で。
リーテと呼ばれた少女が顔面蒼白といった表情で硬直し。
彼女を抱きかかえていた少女もその光景に呆然としていた。
「ランジェ、嘘だろ・・・?」
思わずネッサが声を発する。
やがてもう二度と動かないことを悟ったフィーネがその場にうなだれ、泣き伏せてしまった。
青年がフィーネの元へと近寄り、こう語りかける。
「やあフィーネちゃん、また会ったね・・・どうだい?お兄さんを失った気分は。」
フィーネは俯いたまま何も答えようとしない。
まるで青年の声など聞こえないかのように。
「・・・これでお分かりいただけましたでしょうか?この殺し合いは、全て嘘偽り無い真実ですよ。」
重苦しい雰囲気も構わず、青年が説明を続行する。
「続いてあちらをご覧ください、あの扉がこの会場の出口であり、殺し合いの舞台への入り口となります。あの扉から外へ出ますと自動的に各エリアへ転送されます。」
その場の誰もが緊迫した面持ちでその説明を聞いていた。
もはやこの後に及んで反抗する者などいなかった。
「その舞台で皆様総勢70名が殺し合い、最後の一人になった方が優勝となります。優勝者は、そうですね・・・願いを何でも叶えて差し上げましょう。」
その言葉に数名が反応するのを・・・アールは、見逃さなかった。
そして、反応を見せたのはフィーネも例外ではないことも・・・。
「それでは順番に名前を呼んでいきますので、荷物を受け取った後扉の向こうへとお進みください。この鞄には食料と地図、筆記具に参加者名簿といった必需品と、あとランダムに3つアイテムを支給しております。鞄には好きなだけ物を収納できるのでお好きに活用してください。」
一通りの説明が終わり、参加者の名前が順番に呼ばれる。
先ほどジャックと呼ばれた悪魔の少年に見せたような愛想の良い表情で。
「それでは、アール君。」
まず最初にアールの名前が呼ばれた。
どうやら五十音順で呼ばれるようだ。
その声に反応し、アールが動く。
「ここで下手な行動を取るのは得策じゃない、どうやら行くしかないみたいだな。だが、当然・・・俺は殺し合いなんかは絶対にしない。」
そう言い残し、鞄を受け取りその場を後にした。
続いてアイリス、アティスと続き・・・ねずみ侍の次に、ネッサの番が来た。
会場にはまだそれなりに多くの者が残っているが、その者達よりも先に会場を後にすることになる。
ランジェの遺体を見た時のフィーネの表情が、目に焼き付いて離れなかった。
もう二度と、あのような犠牲を出したりしない。
そう、心に誓った。
こうして・・・。
殺し合いの舞台は幕を上げた。

【ル・ランジェ 死亡】
【残り 70人】


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