Autumn daffodil

□恋人未満
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ーカランー

『いらっしゃいませー』
「あー、莉桜ちゃんいらっしゃい。店長今、手ぇ放せないからちょっと待ってて?」
「こんにちは、わかりました」
「こんな時間って珍しいね?」
「今夜は予定が入ってて……この時間にしか空けれなかったんです」
「そうなんだ。今日はちょっと多いから、ごめんね?」
「お気になさらず。ゆっくり待ってます」
莉桜はソファに座ると、店内に流れている音楽を聴きながら呼ばれるまで本を広げた。
莉桜は店長である雄士と昔からの知り合いであり、雄士の実家が営んでいる理美容室に莉桜の母親が常連で、莉桜が小学生のとき、店にいた雄士に髪を切ってもらって以来、雄士が担当するようになった。
いつもは雄士の言い付けで閉店間際や閉店後に来店するのだが、今日は夕方しか時間が取れず、いつもと違う店内の雰囲気を味わいながら、気長に待っていた。

「お待たせ、莉桜。今日はシャンプーだけだっけ?」
「あ、お兄ちゃん!うん、シャンプーだけお願い」
「じゃあ、こっちおいで」
そう言うと、雄士はさりげなく莉桜の腰に手を回し、シャンプー台へと促した。
「タオルかけるぞ。……………お湯、熱くないか?」
「大丈夫ー。気持ちいいよー」
「よかった。今日マッサージはどうする?」
「忙しいんでしょ?」
「気にすんな、もう少ししたら落ち着いてくるし。…つか、オレがしてやりたいだけ」
「……じゃあ、お願いします」
「かしこまりました」
莉桜は雄士の手が好きで、洗われてすぐに目を瞑り気持ち良さそうに身を委ねていた。

「…っし、終了。乾かすから、悪いけどもう少し待ってて」
「わかった、ありがとう」
莉桜は定位置である、店内の中でも少しだけ離れた角にある席に座ると、賑わっている店内を少し気にしつつも雄士がブローしてくれるのを本を読みながら待っていた。

「ブロー入りまーす!」
「あっ!倉本、待っ……」
女性スタッフが莉桜の席へ行こうとしているのに気付いた遼汰は声をかけたが、女性は聞こえなかったのか莉桜の席に近付いた。
「え………?」
その時、腕をガシッと掴まれ、そのスタッフはビックリして振り向いた。
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