Autumn daffodil

□恋人未満
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「倉本、こっちはいいから向こう回って」
「店長……でも……」
「いいから!莉桜はオレがするから」
「……はい………」
いつもと全然違う雄士の雰囲気にビクリと肩を震わすと、倉本と呼ばれたスタッフは違う客の対応へ向かった。
雄士はそれを見ることなく、すぐに莉桜に向き直るといつもの柔らかい表情を見せていた。
「莉桜、悪いな」
「別にあの人でもよかったのに……」
「……オレがやだ。あ、そうだ。今週の土曜日あいてる?お前の成人式用の着物、一緒に見に行こうと思ってんだけど」
「本当!?嬉しいー!今週、土日は予定ないからお兄ちゃんに合わせる。……でもお店は?」
「前から臨時休業にさせてもらってたんだ。だから一日時間ちょうだいよ」
「わかった!お兄ちゃんと出掛けるの久々だなぁ……楽しみ」
「決まり。時間とかはまたメールしとく。………っし、終わったぞ。うん、今日も可愛くなった」
鏡を見ながら、雄士は莉桜の髪を一房とると、チュッと髪にキスをした。
「ふふ、ありがとう。やっぱお兄ちゃんの手、気持ちいい。じゃあ連絡待ってるね」
「おぅ。ありがとうございました」
莉桜は会計を済ませると上機嫌で店を出ていった。
雄士は姿が見えなくなるまで目で追うと、いつもの仕事に戻っていた。



「今日もお疲れっしたー。……あ、倉本、今日は災難だったな。一応、オレ止めたんだけど……」
「お疲れ様ー。沢田くん、今日のあの子店長の何なの?」
「そういや、倉本は今日初めてだったのか……まぁ、いつもは閉店間際か閉店後に来るから、その日にラストまで残ってる奴しか会うことはねぇんだけど……」
「確かに。いつも私や遼汰くんが遭遇するよね。ラストメンバーだいたい決まってるし」
「私も初めて見たー」
「俺も俺も!なんか店長、いつもと違ってませんでした?ずっと付きっきりっていうか……」
スタッフルームで持ち上がった話題は、今日の莉桜のことで。
閉店まで働いているスタッフは、だいたい遼汰か泉であることが多いため、この二人は、莉桜の存在を知っているし話をすることもあった。
「あの娘は莉桜ちゃんっていって、店長とは昔からの知り合いらしいぜ?」
「……彼女って訳じゃなさそうよね?お兄ちゃんって呼んでたし……」
「……あー……でも莉桜ちゃんは店長担当だから覚えとけよ?オレも昔知らなくて、今日の倉本みてぇに怒られてさ。本人はどうかわかんねぇけど、店長が自分でしねーと気に食わねぇっていうか……」
「……店長のあんな雰囲気初めてよ……でも、彼女じゃないなら……うん」
「…………いや、無理だろ……(ボソッ)」
「何か言った?」
「いや、何も。ま、ほどほどにしとけよ」
「大きなお世話よ」
倉本はそう言うと、バタンと勢いよくドアを閉めながら出ていった。
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